カケラを集めて…
□君を殺した日
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時は戦国。
分裂した国々は天下統一に燃え上がり争いが絶えなかった。
ここは瑚(ご)の国と呼ばれる裕福な国である。
街は栄え、何千万人と言う市民がこの国の支配下にいた。
瑚の国の王、騰貴(とうき)には幼い息子がいる。
賦貴(ふき)といい、愛らしい顔に似合わず王の息子らしい暴君であった。
賦貴はとにかく我儘で、勉学にも励まず悪戯をしては使用人たちに迷惑をかけていた。
そんな中、賦貴を上手く操るものが一人だけいた。
騰貴の右腕の奨(しょう)という男だ。
頭がよく、この国はこの男によって成り立っているようなものだ。
奨はとにかく大きな男で、体格もそうだが、何より懐の大きな男であった。
奨に抱かれればどんな子供も泣き止み、奨が話せばどんな大人も納得させた。
そんな奨にだけ賦貴は懐いていたのだ。
今日もまた、戦国の中の平和なひと時に元気な賦貴の声が響いていた。
「しょうー!!居らぬのか?」
小さな体で長い廊下を走り回り、えらそうな口ぶりで奨を呼ぶのはこの国の王子、賦貴だ。
「賦貴か。俺はここだ」
上から聞こえた声に庭に出て屋根を仰ぐと、大きな体が横たわっていた。
「奨、そんなところに居っては落ちて怪我をするぞ」
羨ましそうな顔をしながらも、小さな体では上れないそこにいる奨にとびきりの意地悪を言ってみる。
「なぁに、落ちやしないさ。賦貴も来るか?」
「・・・ならば、おぬしも手伝え」
近くに聳え立つ今は葉一つない桜の木に攀じ登ると、屋根にいる奨へと手を伸ばした。
奨は賦貴の腕をつかむと力強く引っ張り、その大きな胸で受け止めた。
「うっ・・・。ぬし、わしはこの国の王子じゃぞ。ちと扱いが雑ではあらぬか?」
大きな胸で受け止められたが、それは筋肉で硬く引き締まっており、クッションにするには向いていないだろう。
「この国を治める者なら強く成らねばならん。賦貴は少々大事に育てられすぎたのでないか?」
奨の胸から屋根へと移り、奨の隣へ寝転がる。
「わしは強く育っておる。現にこうして木に登り、屋根に寝転がっておるではないか」
ふん、と大きく胸を張ると、上に何よりも大きく広がる空がどこまでも続いていた。
「のう奨よ。この空はどこまで続いておるのじゃ?」
隣に横になった奨の横顔を覗くと、少しだが切なそうな顔をしていた。
「俺にもわからん」
「奨にも分からぬことがあるのだな」
「おう。世の中分からぬことばかりよ」
自分よりも長く生きている奨にも分からぬこととは、いったいどんなことだろうかと思う賦貴だが、なぜかそれを尋ねてはならない気がした。
「賦貴よ。もうすぐ俺の子が生まれる。男だったらお前が王となったとき、その右腕として仕えさせてやってくれ」
「わしの右腕は奨でよい」
賦貴は奨と信頼しあい、肩を並べる父上が羨ましかった。
いつか自分も奨と並び、父のように何十もの国を侵攻し勝利の喜びを分かち合いたかったのだ。
「・・・女だったら、お前の嫁として貰ってくれぬか?」
賦貴の言葉に返事はなかった。
奨がこのように人の言葉を流すことは珍しい。
「奨の頼みなら仕方がないのぉ」
奨はいったいなにを考えておるのだろうか。
このときの賦貴には、理解など出来るはずもなかった。