崩牡丹

□医務室の曲者
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「あいつ…っ」
『いいから』
「お前は欠陥品なんかじゃない!」

俯いて声を張り上げる文次郎。
影四郎は何も言わず手当てを始めた。

「……欠陥品なんかじゃ…ない」

おそらく、自分に言い聞かせたかったのだろう。
自分たち…いや、自分のせいで影四郎は≪欠陥品≫になってしまったのだから。

『欠陥品とか言われても気にならないよ』
「…しかし」
『………』

沈黙。
そして、

「いってぇええッ!!!???」

文次郎が飛び跳ねた。

『傷に塩を塗りこむと沁みる』
「た、確かに…って当然だろうが!何でここに塩が…ッ」
『文次郎、』

塩がたくさん入っている壺を床に置き、影四郎は真っ直ぐな瞳で文次郎を見据える。
一瞬、塩が沁みている事など忘れた。

『そりゃあ、昔は大変だったよ』
「は?」
『距離感が掴めなくてよく転んだり物に当たったりしてた』
「あ…」

長次と小平太、どちらかがいつも影四郎の傍にいた。
転ばないよう、転んでもすぐに助ける事ができるよう、物に当たらないように…
文次郎も組が同じだったら同じ行動をとっていただろう。

『でも慣れたし、今じゃ全然支障はない』
「…」

言いたい事は分かる。
もう気に病む必要はないと、言いたいのだ。

「しかし…俺は償わなくては…」
『あー…もう…』

忘れて生きていけるほど大人ではない。
すると影四郎は包帯を手に取って、傷口に巻き始めた。

『じゃあ……もう責任をとって…婿にでも来たらどうだ』
「は!?」
『あ、実家を手伝ってくれてもいい』
「…」
『忘れるか、婿に来るか。二択だ。それ以外認めない』

冗談か、はたまた面倒になったから適当に言ったのか。
もちろん本気ではないだろう。

それでも、一瞬真に受けてしまった自分がいる。

「…………………」
『? どうし…』



すぱーんっ!!



「文次郎!」

小平太が襖を思いっきり開いた音だ。
何があったのか、少し不機嫌な顔をしている。
ずかずかと入って来たかと思うと文次郎を押しのけて影四郎の前に膝をつく。

「文次郎よりも私の方が役に立つぞ!」
「は?」
「長次も連れていこう。三人で手伝ってやる」
『う、うん…ありが』
「だから文次郎を婿にするな」
『うん?』

このまま放っておいたら求婚までしてしまいそうな勢いだ。
影四郎はおかしそうにくすくすと笑う。

『一応あれは冗談だけど…まあ、手伝ってくれるならありがたいな』
「仙蔵も連れてくか…留三郎と伊作も…」
「つーか小平太、何でここに?」
「え?あ、さっき田村が呼んでたぞ。委員会の仕事が急に増えたって」
「早く言え!!」
「お?お?」

一気に立ち上がると、文次郎は小平太の髪を掴んで部屋を出ていく。

「何で私までーっ!」
「うるさい大人しくしろ!」
『……』

ぎゃあぎゃあと言い合う声が徐々に遠ざかっていく…
忍者があんなにも騒がしいというのも考えものではあるが、
たまにはいいかもしれない。



雨はいつの間にか止んでいた。






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