崩牡丹
□忍術学園全員出動!
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『ふぇっくしょい!!!!』
数日後。
夏休みが終わり、影四郎は忍術学園に戻ってきていた。
「風邪か」
『…ん……そうかも』
「また池に浸かってたわけ?」
『いや、今度は川に……あ』
振り向けばにっこり笑った伊作が。
笑顔は笑顔だが、明らかな怒気を感じる。
「川に浸かってたんだ?」
『いや…その…浸かってたというか…』
思わず長次の後ろに避難をするが、伊作は逃がすまいと影四郎の髪の毛をむんずと掴む。
長次は長次でどちらに味方をすればいいのか判断しかねるらしく、ただ突っ立っているだけだ。
『溺れてる子がいたから…それで…』
「川に入って、助けて、それだけで風邪ひくわけないだろう」
『あぁ、じゃあこれ風邪じゃないん…』
「風邪!!!医務室行くよ!」
『痛い痛い痛いっ』
「……」
髪を引っ張られて連行されていく影四郎を、ただ見送るだけしかできなかった長次だった。
●●●
「薬飲んでも安静にしないと意味がないからね」
『分かってるよ…』
「…」
分かっていないだろうとばかりに伊作は一睨み。
『…そういえば…伊作の宿題はどうだった?』
「え?あぁ…タソガレドキ軍の旗を一本取ってくるって宿題だったけど…」
『そういえばオーマガトキ軍と合戦していたな』
「楽勝だと思った」
難易度で言ったら四年生くらいの内容だ。
六年生の宿題でそんな簡単なものが出るわけがない。
「影四郎は?」
『二年生用の問題集』
「…それはさすがにおかしいね」
『だろう?』
ちなみに喜八郎は読書感想文だったらしい。
『私としては…』
「綾部くん!」
勢いよく襖が開き、道具管理主任の吉野先生が入ってきた。
何があったのか(予想できるが)怒りに顔を赤くしている。
「今すぐ来てください、緊急会議を開きます」
『え、あの』
「学級委員長委員会の委員長でしょう!」
『あ、はい』
吉野先生は力強く影四郎の腕を掴むとどすどすと歩き出した。
立ちあがってすらいなかった影四郎は引きずられながらも何とか立ち上がり、後についていく。
「影四郎、安静だからね!」
後ろから伊作に念を押されたが、返事をしている余裕がなかった。
『会議って…どうかしたんですか?』
「また小松田くんです」
――だろうと思った…
一日に何回もヘマをする事務員、小松田秀作。
吉野先生が怒っている時の八割は彼のせいだ(残りは生徒)。
「連れてきました」
「おお、御苦労さまです」
腕が痛いなぁとぼんやり考えていると、会議をしているらしい部屋についた。
中には大きな白い紙を囲んで教師陣が勢ぞろいだ。
『何があっ…』
「影四郎の宿題はなんだ?」
紙に何かを書きこんでいる土井先生が顔を上げて聞いてくる。
表情から察するに…大変な事が起こっているらしい。
『問題集です。二年生の』
「やはりか…」
影四郎の返事に教師陣はがっくりと項垂れる。
「綾部影四郎…二年生用問題集、っと」
「ではあと残っているのは喜三太と六年生用の…」
「ええ…オーマガトキ城主の褌をとれというものですね」
「変な宿題」
「君は黙ってなさい!!」
よく見れば、部屋の片隅に正座をさせられている小松田の姿が。
恐らく彼に非があるだろうに全く反省していないようだ。いつもの事だが。
「今すぐにでも探しに行かないと……ん?」
――ころん ころん
しゅーっという音とともに煙玉が部屋に投げ入れられたが、教師陣が気付いた時にはもう遅く。
少し離れたところにいた影四郎と小松田以外、真っ白な煙に包まれた。
「げほっ…学園長!普通に登場できんのですか!!」
「ごっほん!!ぅえっほ!」
『……』
煙の中から華麗に(?)登場してみせた学園長だが、いつもの事ながら煙に噎せている。
影四郎としては、こんな茶番を繰り広げている場合じゃないだろうと思うわけだ。
「喜三太救出は宿題をやってこなかった生徒に行かせる」
「学園長!」
「また突然の思いつきですか!」
もちろん突然の思いつきをやっている場合でもない。
しかし学園長曰く「突然の思いつきではない!」らしく…
「これから忍術大作戦が始まるのじゃ!ヘムヘム!」
「ヘム!」
学園長に言われてヘムヘムがどこからともなく「宿題をやってない生徒リスト」を取り出した。
そしてそれを何故か影四郎へ渡してくる。
『……えー…と…宿題をやっていないのは…』
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