崩牡丹

□忍術学園全員出動!
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夏休み。
学校から離れる事ができる期間。
実家に帰る事ができる期間。

授業がなくなるのは(大体の生徒なら)嬉しいものだ。

しかし教師陣はちゃっかりしているもので、
≪宿題≫というものが出される。
生徒によっては夏休み終盤まで手をつけないでいるという事もありえるだろう。

「あんたら…手伝いをしてくれるのはいいんだけどさ」
『うん?』

影四郎の実家は小さな宿。
普段は母が一人で切り盛りしているのだが、今日は兄弟二人で手伝っている。

「宿題は?いいの?」
『あー…』
「それがおかしいんですよねぇ」

外で生ゴミを埋める用に穴を掘っていた喜八郎がひょっこりと顔を出した。
母は泥だらけの顔を見て少しだけ顔をしかめたが、影四郎はとっくの昔に慣れている。

「僕のも兄上のも簡単すぎるんです」
「簡単?…埃が残ってるよ影四郎」
『ぶっ』

帳簿から目を離さずに母は雑巾を息子に投げつける。
見事に顔に命中した雑巾が、影四郎の足元にぽとりと落ちた。
ため息をぎりぎりで堪えてそれを拾う。

「ちゃんと洗い流してきな」
『…はい』

――逆らったら今度は算盤が飛んでくるに違いない
文次郎の持っている算盤のように殺人的重量でないのが救いだが、
来ると分かっている攻撃をわざわざ受けるようなバカではない。

「ついでに洗濯物も洗ってきて」
『……』

影四郎は文句を飲み込んで、雑巾を持って出て行った。

「…喜八郎」
「はい?」

厄介払いができた、と言わんばかりに顔を上げ、母は口を開くのだが、

「雪緒さんっ!」
「あー…」

近所にすむ女性が急いでいる様子で中に入ってきたため、言葉を引っ込める。
女性は急いでいる…というより、若干焦っているようだ。

「どうしたの」
「うちの子が川に落っこちたのよ!」
「かわぁ?」

子供が川に落ちた、となれば、普通の人間なら血相を変えて家を飛び出すだろう。
しかし、この母…綾部雪緒は、普通ではない。

「一度溺れれば川の怖さが分かるでしょうよ」

昔からこの調子だ。
自分の息子二人は問題を起こすような性格ではなかったのが幸いし、
今まで死にかけるような事はなかったのだが。

「死んだりしたらどうするの!」
「息子をちゃんと見てなかった自分を恨めばいい」
「そんな……お願いよ雪緒さん、助けて」
「……」

二人のやりとりを黙って見ていた喜八郎は、思いだしたように外に目をやる。

「…母上、兄上が帰ってきました」
「拭くもの持ってきてやりな」
「はぁい」
「え?…え…?」

雪緒に半ば縋るように懇願していた女性は顔を上げ、薄く微笑んでいる目の前の女を見る。
すると、雪緒は大袈裟にため息をついた。

「庭にある井戸が使えないのよ。だから最近の洗濯は川でしてるの」






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