崩牡丹

□生きていたい
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影四郎の頬は冷たかった。
いや、もしかしたら自分の手が熱いのかもしれない。

胸が苦しい。
寝顔を見ているだけなのに、こんなにも、胸が…

『…ん…?』
「!!」

つう、と頬を人差し指で撫でた瞬間、影四郎はうっすらと目を開けてしまった。

まだ完全に覚醒はしていないようだが、兵助が自分の頬に触れていた事は分かったようだ。
へにゃんと柔らかな笑みを見せ、兵助の手をとる。

『兵助…手が熱いね、熱があるんじゃないか?』
「い、いえ!大丈夫です!!」
『そう?』

――謝らないと
その気持ちももちろんあったが、
後輩が、自分が寝ている間に触れてきたと知って、この人はどんな気持ちだろう。
どう思われたか、怖かった。

しかし当の影四郎は全く気にしていないようで、起き上がって布団を畳んでいる。

「あ、の…」
『兵助、私から話していいかい?』
「あ……はい」

布団を畳み終わって、影四郎は兵助の枕元に座った。

『…ごめんなさい』
「……え?」

…かと思うと、床に両手をついて深々と頭を下げる。
何故謝られたのか分からない兵助。

『責めるべきじゃなかった。…お礼を言うべきだったね』
「…」
『庇ってくれてありがとう』
「…っ」

目頭が一気に熱くなる。
怪我の痛みなど吹っ飛んだ。
たった一言で心が満たされる。

単純だなと心のどこかで思うが、それもどうでもいい。

『………兵助…まだ怒ってる?』
「えっ!」
『ここ』

台詞とは裏腹に影四郎は穏やかに微笑みながら、兵助の眉間をとんとんとつつく。
そこで初めてしわが寄っている事に気付いた。

「これは…怒ってるのではなくて……」
『?』
「…あぁっと…次は私が話していいですか?」
『いいよ』

話をはぐらかされたのが分かっても影四郎は笑ったままだ。




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