崩牡丹

□泣き声が響く
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先輩を亡くし、意気消沈した影四郎をどうにかして笑わせたいと長次が言ったと、
たまに一緒に走ったり忍者の練習をするようになった小平太に言われた。

聞けば、長次は同じ組の友達らしい。

「笑わせるって、どうやるんだよ」
「分からん」
「…」
「文次郎にも手伝って欲しい!」
「あのなぁ…」

俺はその影四郎とやらと面識はないし、どんな奴かも知らないし、どうしろって言うんだ。

「ギンギンに忍者する忍者になるんだろ?」
「それとこれと話は別だ!」
「あっ、影四郎だ」
「あ?」

全く話を聞かない小平太が指差した先に、一人の一年生がいた。
木陰に座って、静かに本を読んでい……ないな、本が逆さまだ。

「長次が面白い本を貸したって言ってたな」
「読んでないだろあれ」
「うーん」

顔色は(木陰にいるからか)悪いし、目の下にクマまである。
まるでこの世の終わりみたいな顔だ。

「小平太」

思わず影四郎を見つめていたら、不意に後ろで声がした。
けれど、その声の主を確かめる必要をなぜか感じなくて、

「あぁ、長次。これが文次郎だ」
「知ってる」
「文次郎、こいつが……もんじろー?」
「……」

影四郎から目が離せなかった。
なぜだろう、ただ暗そうな奴ってだけなのに。

「昨日も一昨日も、影四郎はあそこでぼーっとしてた」
「そういえば授業以外は教室にいなかったな」
「……」

そこで初めて長次の顔が視界に入った。
俺が視線を移したのではなく、長次が俺の少し前に移動したのだ。

「あそこは、亡くなった先輩とよくいた木陰らしい」
「…」

影四郎の中で、≪先輩≫がとても大きかったのだと分かる。
でも分からない。あそこにいたって≪先輩≫が来る事はもうないのに、どうして…

「あ」

小平太が声をあげた。
そして、視界にちらつく、白いもの。

「雪か…」
「今日は寒いからなー」
「私は影四郎に中に入るよう言ってくる。二人は先に行ってくれ」
「分かった。行くぞ、文次郎」
「…」

小平太に腕を引っ張られて体が傾ぐ。


その時は、最後まであいつから目が離せなかった。





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