崩牡丹
□傷
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「休め」
『嫌だ』
「…」
文次郎は深くため息をつく。
兵助が怪我を負ってから丸二日が経過していた。
校医の新野先生曰く、すぐに意識は回復するだろうとの事だ。
『……誰が何と言おうと私はここにいる』
目の下にくまを作り、顔色も悪い影四郎だが、兵助の意識が戻るまで休む気はないのだろう。
『大切な後輩なんだ…』
「…大切、か」
『あぁ』
授業に出ず、委員会にも出ず、他の後輩に迷惑をかけ、心配をさせて、
それでも影四郎は久々知を選ぶのだろうか…
文次郎はずっと考えていた。
影四郎の中で≪久々知兵助≫という存在がどれだけ大きいのか、分からないのだ。
自分のせいで怪我をさせてしまったから、今ここにいるのかもしれない。
それが悪いとは言わない。
ただ、兵助からしたら…
「う…」
『! 兵助!』
「……せんぱ…い…?」
微かなうめき声とともに、兵助がうっすらと目を開ける。
瞬間、怪我をした部分に痛みが走ったらしく、ほんの少し顔をゆがめた。
「…先輩…怪我…」
『え…』
「怪我は、ありませんか?」
「!」
文次郎の脳裏にちらつく、あの時の光景――
――『君に…怪我は、ない?』
重なってしまった。
『なぜ庇った…』
「…」
『君に庇ってもらう必要なんてなかった!』
「先輩…」
影四郎は兵助を責めていない。
責めているのは自分自身。
しかし、兵助はそれを言葉通り受け取る。
自分の行動を否定されたと、そう思ってしまう。
「バカ野郎!!」
『っ!』
「てめぇ…俺と同じ後悔をするつもりか!」
『……あ…』
影四郎も思い出したのだろう。
目を大きく見開いて、どこか怯えた表情で、兵助に視線を移す。
『ごめん…兵助』
そう呟いたかと思うと、立ち上がって医務室を出て行ってしまった。
「…ったく」
「……」
「気にするな。あいつはお前を責めてない」
「……潮江先輩」
兵助は天井を見つめて問う。
「同じ後悔とは、何ですか?」
「…」
「もしかして…右目…の…」
「…あぁ、そうだ」
「…」
自らの右目から頬をそっと撫でる文次郎。
目を閉じたせいで視界はかなり狭まった。
「あいつは一年の頃…自分で右目を潰したんだ」
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