崩牡丹

□高貴な美しさ
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『……ん…?』

影四郎が目を覚ましたのは医務室に運びこまれてから一刻後の事。

『…医務室か…あれ?池にいたはず…』
「運んだんだよ!僕と仙蔵で!」
『あ、伊作』

珍しく怒った様子の伊作を視界に捉えた影四郎は身を起こす。
どうやら具合は悪くないようだ。

「長時間池に入るのは禁止…そう言ったよね?」
『さぁ…』
「言 っ た よ ね ?」
『言いました聞きましたごめんなさい』
「……はぁああ…」

これはマズイと思ったらしい影四郎は素直に頭を下げるものの、
伊作は呆れたため息をつく。

「僕に謝るんじゃないでしょ」
『……?』
「――あぁそうか…君を見つけたのは誰か知ってる?」
『仙蔵じゃないのか?』
「久々知だよ」

――善法寺先輩!影四郎先輩が…ッ!

「僕を呼びに来たのも彼だけど、凄い真っ青な顔だったんだ」
『……』
「君が自分の行動を省みないならきっとまた、彼は同じ思いをするだろうね」
『…ずるい』

伊作の言葉を聞いて影四郎は薄く苦笑い。
後輩の名を出せばきっと自分を戒めると分かっているのだ。
兵助を心配する言葉ではなく、影四郎を心配するだけの言葉。

「学習しない君が悪いんだよ」
『知ってる』

こういう人間だと知っているのだから今さら非難する必要もない。
そんな事より、今はしなくてはならない事があるだろう。

『じゃあ私は行くよ』
「無理はしないようにね」
『もう池には長時間入らない。約束しよう』
「……そう」

――何が約束だよ
――それ以外の無茶ならするんだろう?

「ずるいのは君の方だよ」

静かに医務室を出て行った影四郎の優しい笑みを思い浮かべながら、
伊作は彼が横になっていたまだ温もりが残る布団をさらりと撫でた。




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