崩牡丹

□高貴な美しさ
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「……先輩…?」
『…』

池に浮かんでいるのは紛れもない影四郎。
春が終わり、梅雨が近付いているとはいえ、池の水温はまだ低い。
まるで死んでいるかのように顔は白く、しばしの間見とれてしまった。

しかしそれよりも目を引くのは、
影四郎の近くにたくさん浮かんでいる薄桃色の花。

「これ…」
「牡丹だな」
「うわぁあっ!?」

兵助が池の中に入ろうと足を踏みだした瞬間、いつの間にか後ろに立っていた仙蔵が呟いた。
五年生ともあろうものが簡単に背後を取られるのは感心しないが、
それほどまでに兵助は影四郎に見とれていたのだろう。

「美しいな。まるで死体のようだ」
「し…!?」
「そうだろう?蝋のように白い肌はこんなにも冷たい」

自分の着物が濡れるのも構わず池の中に入り、影四郎の頬に触れる仙蔵。
確かに死体だと聞かされたら納得してしまうかもしれない。

「……」
「…伊作を呼んで来い」
「は、はい!」

仙蔵は真っ青になっている兵助の顔を見ると軽くため息をついた。
そして影四郎の近くに浮いている牡丹の花を避けながら指示を出す。

早く助けたいからなのか、死体のような影四郎から目を離せるからなのか、
兵助は走って医務室へと向かっていった。

「…バカ者め…」



●●●



連れてこられて一番初めに伊作がした事。
それは、

「何やってるんだ!」

仙蔵が池から引き上げた影四郎の頬をばちんっ!とひっぱたく事だった。

「文次郎じゃないんだから池の中に長時間入るなって何回も言ってるのに…!」
「気を失っている奴に言った所で意味はないぞ」
「とりあえず医務室に運ぼう。仙蔵手伝って」
「分かった」





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