崩牡丹

□火薬委員会の煙硝蔵
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「嫌な予感は的中か…」
『言ってくれればよかったのに』
「全く、今日はうちも人手不足なの」
『いてててて』
「はい終わり」

伊作は医務室を開けていられないからと、
素早く影四郎を手当てすると早々に医務室に戻って行ってしまった。

怪我をしたのは一人だけで、しかも頭に大きなたんこぶが出来ただけ。
そう考えればかなり幸運だったのかもしれないが…

「ごめん影四郎っ!悪気はないのだ!」
『あってたまるか』
「ごーめーんーってー」
『…』

煙硝蔵の破壊、火薬の散乱。
土下座を何回されても許すわけにはいかなかった。

「影四郎〜……」
『無理』

一年生の頃からやたらと騒ぎを起こしてきた小平太と、それを何だかんだで許してきた影四郎。
しかし今回は影四郎個人としてでなく、火薬委員長として対処する必要がある。

『小平太、お前ももう委員長なんだぞ』
「…」
『煙硝蔵があった事に気付かなかったのか?』
「…うん…」
『お前のせいで私たちの仕事がかなり大量に増えたんだ』
「…ごめん」

母親に叱られている子供とはこんな様子だろうか。

『しかも今日は火薬は二人しかいないんだぞ?そっちと違って』
「……」
『…反省した?』
「した!」

小平太についている見えない獣耳がぴょこんと立った気がした。
許してもらえるのかと目に書いてある。

『…ったく』


●●●


『……………兵助、ごめん』
「いえ…」

そして二人で煙硝蔵の片付けをする事に。
壁の修理は用具委員会に頼む事にして、出来るだけ火薬を元の場所に戻しておくつもりだ。

「そういえば先輩、」
『んー?』

作業を始めて少し経ち、思い出したように兵助が手を止める。

「どうして七松先輩のアタックが突っ込んでくると分かったのですか?」
『あぁ…』

――……この聞こえ方…
――え?

『どっちに顔が向いているかによって、声の聞こえ方が変わるだろう?』
「…あ…」
『あの時、声から察するに小平太は煙硝蔵の方に顔を向けていたから』
「(全然気にしていなかった…)」

小平太の事だから、ろくに考えもせずにアタックを
打ってくるだろうと判断したのだがそれは正しかった。

『それにしても、君に怪我がなくて本当によかった』
「…っ」

優しく微笑みかけられ、頭を撫でられる。

「こ、子供扱い、しないでください。もう五年生です」
『まだ五年生さ。私もまだ六年生だからね』


――「影四郎、大丈夫。俺もまだまだ未熟な六年生だ」
――『そうなんですか?』
――「六年生になれば成長できるわけじゃないから」


一年生の時に六年生の先輩が言っていた言葉を思い出す。
今、あの人は安らかに眠れているのだろうか。

「…影四郎先輩?」
『あ……いや、何でもない。早くやってしまおうか』
「……」



――君は俺と似ているよ、影四郎
――きっと誰かを守って死ぬんだろう
――でもそれは幸せな事だと、
――俺は、





続く。
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