崩牡丹

□六度目の春
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『ええええっ!?』

昼、学園長に呼び出された影四郎は似合わない大声をあげてしまった。

「…耳が痛いじゃろうが」
『だ、だって、学園長先生がおかしな事を仰るから!!』
「わしは何もおかしい事など言っとらん」
『充分おかしいですよ!』

だんっ!拳で畳を殴りつける。
いつも冷静な影四郎がここまで慌てる原因が、学園長が今さっき言った言葉。

――綾部影四郎にはたった今から
  学級委員長委員会委員長と
  生物委員会委員長と
  火薬委員会委員長を任命する!!

『火薬委員長はいいですよ、元々火薬委員長代理でしたし』
「うむ」
『学級と生物は何なんですか!私虫が苦手なんですけど!』
「それが否定する第一の理由か」

幼い頃、服の中に虫が入ってしまって以来、
虫が大の苦手になってしまった影四郎。
生物委員会委員長ほど辛い役職はなかった。

『しかも三つも…これじゃますます…』

――皆に追い付けなくなってしまう。
とは、さすがに言えなかったものの、本心はそれだ。
虫も確かに嫌なのだが、第一の理由は自習の時間が取れなくなってしまう事。
それがたまらなく嫌だった。

「もう決めちゃったもんねー」
『なっ…』
「学園長の言う事は絶対じゃ!」
『…っ』

これ以上抗議をするのは無駄のようだ。
悟った影四郎は諦めから来たため息を飲みこんで、静かに立ち上がった。


●●●


学級委員長委員会

「綾部先輩が委員長になったって本当だったんですね」
「これで私の肩の荷が下りる…」

五年い組学級委員長、尾浜勘右衛門。
五年ろ組学級委員長、鉢屋三郎。
そして、

「初めまして、一年は組の黒木庄左ヱ門です!」
「い、一年い組の今福彦四郎ですっ」

学級には二人の一年生が入ったらしい。
上級生が五、六年しかいない委員会で少なからず緊張しているようだ。
同じ目線になるよう影四郎は一年生の前にしゃがみ込む。

『私は六年ろ組の綾部影四郎だ。よろしくね』

落ち着かせるために微笑んだのだが、中々功を成したようだ。
二人はほっとしたように目配せをしている。

本当はもう少し話をして打ち解けたかったのだが、生憎時間が迫ってきていた。

『勘右衛門、三郎』
「「え」」
『私は生物に行くからあとよろしく』
「……は、い」
『?』

急に挙動不審になった二人に疑問を抱きながらも、
影四郎は部屋を出て行った。

「名前で呼ばれたな」
「ああ…」
「「?」」




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