崩牡丹

□六度目の春
1ページ/5ページ


――

返してほしいかい?
帰してほしいかい?

そうだね、ならばいいだろう。

君たちの中の誰か一人…
自分で片眼を潰してごらん。

――

『…』

懐かしい夢を見た。
しかしそれに構う事なく、綾部影四郎は体を起こして頭を数回横に振る。

『六度目の…春』

自分以外誰もいない部屋の中に、静かに響く凛とした声。
――ああ今年は、どんな子が入ってくるのだろう。

思わず、微笑んだ。



●●●



「おはよう、影四郎!」
「…おはよう」
『ああ…おはよう。小平太、長次』

顔を洗おうと部屋を出ると、同じ組の七松小平太、中在家長次とはち合わせた。
おそらく…興奮して眠れなかったのか、小平太はほんの少しだけ眠たげな表情。
――子供じゃないんだから。
影四郎は薄く苦笑する。

「どんなやつが入ってくるんだろうな」
『まあ確かに気にはなるが…』
「自分の事はいいのか」

ぽつりと呟かれた長次の言葉は、影四郎が最近ずっと考えていた事だ。
今年影四郎は忍術学園の最高学年の六年生になった。
いや、なれた、の方が正しいのかもしれない。
六年生になるために行われた試験で、決して少なくない生徒が失格となり、
上がれたのは五年時の人数の半分程度…

『ついていけるかどうか不安だなぁ…』

ぎりぎり合格できた影四郎にとって、
六年生になれたからといって不安が消え去ったわけではないのだ。

「大丈夫だ!」

零れた不安を拭い去るように小平太が笑う。

「合格は合格なんだからなっ」
『そう簡単に考えたいよ』
「そんな事より後輩だ!これで委員会も賑やかになる!」
『私の悩みはそんな事か…』

ため息をつきつつも、小平太がちゃんと
自分の事を思ってくれている事は知っているため影四郎は思わず微笑んだ。



.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ