あなただけをいつまでも

□FILE-9 おしゃれ泥棒
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「知力、体力、時の運…あなたに勝る人はいない、のだとか」
『あ、ああ…そういう…』

がっかりしつつ、安心しつつ。
一応、内心胸を撫で下ろす。

「でも!」

ずい!と女生徒は迫ってきた。
一人だけならまだ視線を逸らせばいいが、それが何十人といてはそれも意味がない。
どこを見ても誰かと目が合ってしまう。

「柊さんから見たらどうなんです?」
『ど、ど、どうって?』
「残様ですわ!」
『の、残が…あの、どう…?』
「好きなんですの!?」
『え、え、え、……』

途端、柊の顔が夕日のように真っ赤に染まる。
その反応を見て残ファンクラブの皆は絶望のため息をついた。

『わ、私は、あの、仕事が!あるのでこれで!』
「あっ!」

───バタン。
残と同じく学生会室に逃げた。
その中に入る術を持たない女生徒たちはようやく諦めたようで、とぼとぼと来た道を引き返していく。

「…柊さんは残様の事が…」
「ああ、柊さんファンクラブの方たち、どうなってしまうのかしら…」

一応柊にもファンクラブがあるらしい。
会員は九割が男子生徒。残りの一割は女生徒で、残たちのファンクラブと掛け持ちしている生徒たち。
ほとんど活動していない為によく分からないというのが、他生徒間での印象だ。

「…………わたし、応援しますわ」
「ええっ?」
「だってお似合いなんですもの!悔しいけれどっ」
「それは…そうですわね…」
「恋敵の不幸を願うよりはマシですわ!」
「………」

その通りですわ……と、彼女たちは口々に零した。

一方で、学生会室に逃げ込んだ柊はと言うと。

『……凄い……剣幕だ…』
「紅茶のおかわりですっ」
「あの…顔が赤いようですけど、一体何を…?」
『赤くないっ!正常だ!』
「は、はあ、そうですか…?」

玲に淹れてもらった熱い紅茶をぐぐーっと一気に飲み干し、カップをつき返す。
そして大きく息を吸い込んで、ビシっと残を指差した。

『今学期の決算報告書!』
「え」
『さあ早く席につけっ』
「ちょ、待っ、待ってくれ柊!いきなりどうし…」

残の背を押して机に向かわせるも、
彼はそれから逃げて柊に向き直る。
すると二人の視線はばっちりと合ってしまい、またもや顔が真っ赤に染まってしまった柊は
すぐさま顔を逸らして背を向けた。

『…いいから決算報告書をだな…早く…』
「?」
「柊さんのおっしゃる通りです」

残が柊に気をとられている隙に
蘇芳は残の腕をがしっとホールド。
彼女に代わって残を席に引っ張っていく。

「提出期限は五日後なんですよ」
「まだ五日もあるじゃないか」
「明日も貴方を捕まえられる保障はありません」
「明日も僕は登校するぞ」
「それでも何があるか」

どちらも引かぬ言い合いを横に、
やっと平常心を取り戻した柊。

『……本気を出せば決算報告書なんかすぐ終わるのにな』
「うわわっ!」
『ん?』
「あっ、いえ!そうですね!……うわ!」

急に話しかけられた玲は過剰に動揺する。
その拍子に机の上の本をばさばさと落としてしまい、慌てて席を立った。

『そそっかしいな……ん?』

足元に落ちた本を拾って机の上に乗せようとすると、
何やら学生会業務の書類ではない、見慣れない紙が置いてある。


≪明晩10時、偲隠家の家宝「童子切・影打」を頂きに参上させていただきます≫


『……』
「えと、お、お茶でも淹れましょうか」

つい先ほど飲み干したばかりだが。

『…悪いな、頼む』
「はい!」

柊が机を覗き込んでいたのには気付かなかったようで、
玲はホッとした表情で駆けていった。



●●●



『20面相からの予告状が?』
「つい先ほど」

母からの電話に柊は内心ため息をつく。
ああ、やはりな…と。予想していた通りだ。

『それで……?いつもの場所からは、当然移動させてあるんですよね?』
「……厳重に保管してありますよ」

もちろん、と言いたげに母は言う。

「偲隠の家で一番安全なところで」
『ガードマンなどは…』
「必要ありません」

偲隠は武術の名門。
まして柊の実家はその本家であり、
わざわざ他所のガードマンを雇う必要はさらさらない。
そういう事を言いたいのであろう。
しかし…

「あなたが心配することは何もありませんよ」
『───ええ。そのようですね。ですが、』

確認しなければならない。

『今すぐそちらに参ります』


20面相の正体を。





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