あなただけをいつまでも

□FILE-8 料理長殿ご用心
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『……何だこの物体は…』

真っ黒の…恐らくケーキだと思われるもの。
嫌な臭いがして、オーブンから取り出したものの既に手遅れだった。

『…………』
「あれ?柊先輩!」
『!』

そしてそこにやってきたのが、名コックの玲。

『た、立ち入り禁止の札をかけておいただろう!』
「焦げた臭いがしてたので何かと思って…」

初等部家庭科室を貸切にしているのも問題だが、それより玲の目にとまったのは、
もちろん柊の手にある真っ黒になった物体Xだ。

「………えーっと…もしかして先輩、料理が……」
『…………』

沈黙は時として肯定となる。

「だ、大丈夫です!練習すれば誰だって上手くなりますよ!」
『下手な気休めはやめてくれ…』

柊はもはや諦めムードだ。
エプロンを取って、椅子に座り込んでしまう。

『やっぱり私に料理は向いてない』
「そんなこと…」
『昔からこうだ』

ゆで卵を作ろうとすれば破裂し、
カレーを作ろうとすれば液体か固体かのどちらか、
焼き魚を作ろうとすれば当たり前のように炭になる。

『まともに作れるのは味噌汁くらいなものだ!あーもうどうせ私は体を動かす事しか取り柄のない女だよ!』
「い、一旦落ち着きましょう!ね!そんな事ないですから!」




間。




「お味噌汁が作れるなら他の料理も作れますって!僕もお手伝いします!」
『……本当に料理下手だぞ、私は…』
「大丈夫です!」

玲は家庭科室にあったエプロンをつける。

「そうだ、僕ちょうどアップルパイを作ろうと思ってたんです。どうですか?」
『アップルパイ?それって…』
「はい、昨日お話しした…」


玲が廊下でぶつかった女性が持っていた箱。
それを学生会室に持ってきた玲だったが、
その女性はなんと大粒の涙をぽろぽろと溢していたらしい。
女性は「もういいの」と言って、箱を置いていってしまったとか…。

ちなみに残はその女性の特徴を聞いて、
「大学部の工藤雪子女史だな」と即答していた。
相変わらず残の記憶力は女性に関しては飛び抜けている。


「僕がぶつかってダメにしちゃったから」
『でも私は玲みたいに上手く…』
「大丈夫ですっ!」

ぎゅっと柊の手を握る玲。

「二人で頑張りましょう!」
『………分かった』

笑顔に励まされたのか、柊は頷く。
再度エプロンを身につけて立ち上がった。







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