あなただけをいつまでも
□FILE-8 料理長殿ご用心
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『美味しい』
「ふふ、ありがとうございますっ」
『…美味しい………』
柊は持っていたフォークを置く。
『どうしてこんなに美味しく作れるんだ?』
「え?」
真剣そのものの柊の顔を見て、
玲はきょとんと首を傾げる。
「確かに玲のケーキはいつ食べても絶品だな」
満足そうに頷くのは残。
早々に皿の上は空だ。
玲が今日持ってきたのは、
大学の特別授業で作った特製ケーキ。
何故小学生の玲が大学の特別授業に関係しているかというと、
≪玲くんのお料理教室≫
という授業だからだ。
特別授業の希望アンケートで大学部の女学生の殆どがそう書き、
残が玲を説得して実現したといわれている。
『蘇芳は甘いものが苦手なのに、玲の作ったものなら何でも食べるからな…』
「伊集院の作ったものは何でも美味しいからですよ」
『確かにそうだが』
玲が淹れてくれた紅茶を片手に、柊は苦い顔。
「しかし玲の花嫁になる女性は大変だなぁ。玲より料理上手になるのは至難の技だぞ」
「!」
途端にボン!と玲の顔が真っ赤に染まる。
「はははは花嫁さんだなんて!そ、そんな、だ、だ、だいそれたこと!!!」
「ありえない話じゃ…」
「おおおおおお皿さげちゃいますね!」
強引に残の皿を掴んでわたわたと走っていってしまう。
「あの必要以上の慌てぶり…怪しいと思わないか、蘇芳」
「……あ、美味しい…」
『いつもと違う茶葉らしいぞ』
「玲にも春が来たんだろうか。蘇芳みたいな」
「ぶっ!」
紅茶を吹く蘇芳。
「げほっ…ごほ!」
『残…蘇芳で遊ぶな』
「まあまあ。凪砂嬢は元気か?」
いかにも楽しそうににっこりと浮かべる残は、テーブルに肘をつきながら首を傾げた。
蘇芳は涙目になりながら残を睨みつける。
「凪砂嬢の舞踊発表会に、お前藤の花持参で行ったんだって?」
『へえー』
「どっ、どうしてそれを…!」
「うむ。大川詠心姫が教えてくださった」
どんがらがっしゃーん!!!
玲がティーポットを盛大に倒す!
「ど、どうしたんだ、玲…?」
「ななななな何でもありません!!」
『ところで玲、』
「はい!?」
ケーキを食べ終えたところで柊はソファを指差した。
『さっきから気になっていたが、あの箱はなんだ?』
「あ…」
玲がケーキと一緒に持ってきたものだ。
少し潰れてしまっている。
「ちょうどここに来る時にぶつかってしまって…」
『何に?』
「女性です。…会長、教えてください!」
「え?」
ずずい!と玲は残に迫る。
「女性問題について!」
「「『はあ?』」」
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