あなただけをいつまでも

□FILE-7 我が心に君深く
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数日後、
残と柊は二人で学生会室に向かっていた。

「ところで柊」
『何だ』
「最近蘇芳の様子がおかしいだろう?」

やはり残も気になっていた様子だ。

「そこでこの企画だ」
『………≪幼等部 秋の園遊会≫』

残が差し出したのは一枚の紙。
幼等部会長・大川詠心が提案した行事だ。
弓道場の外れにある藤棚を、そのまま園遊会の舞台にする…
残が絶賛していたのを覚えている。

『確か凪砂嬢が演奏すると言っていたな』
「知り合いか」
『最近知り合った子で、凄く可憐でお淑やかな…』

そこまで言って、残が彼女の事を知らない筈がない事に気付く。
学園の女生徒の事は全て記憶しているのだから。

「その凪砂嬢の事だが…最近何か変わった事はないか?」
『そういえばどことなく塞ぎ込んでいて…――あれ』
「蘇芳もそうだな」
『……まさか』

紙から顔を上げると、にっこりと残は笑っていた。

「≪恋≫とは良い物だ。蘇芳にもそれを教え……ああ、いや」
『?』
「あいつも≪恋≫の良さは知っているな…」
『え、蘇芳の奴、恋をした事があるのか?』
「………」

その相手が自分だという事に全く気付いていない。

「と、とにかくだ、≪恋≫は素敵だな!」
『…そうだな。素敵だ』
「……え?いや…柊、あの…」
『え?』

本心を呟いただけなのに残は固まり、歩みを止めてしまう。
というより汗がダラダラで、顔色も悪く、何故か笑顔が強張っている。

「その……君は…恋をした事が…?」
『……それは…現在進行形で』
「え!?」
『な、何だお前は。私が恋もしないような間抜け女だとでも…』
「そ、そ、そういうわけではない!」

自分の気持ちに気付いたのはつい最近の事なのだ。
それまで柊は「恋をしないような間抜け女」だったという事になるが…

『……お前は、どうなんだ』
「え」
『まさか付き合ってる奴がいる、とか……』
「いや、いや、いや、いないぞ」

誤解されたくない一心で強く首を横に振る。
すると…

『…………そうか…』

ホッとしたように柊の頬が緩み、
声には出なかったがその唇は「よかった」と動いた。

「まさか……柊、君は…」
『?』
「…僕の事が…」
『あ、蘇芳!』
「へ?」

少し先を、書類の山を抱えて蘇芳が歩いている。
それを見つけた柊は残の言葉など聞いていなかったように、
彼の元へと走っていく。

「あ、柊さん。…と、会長…?どうかしましたか」
「いや…何でもないんだ……」
『蘇芳、その書類…』
「伊集院に任せる予定の物と、あと会長に目を通して頂く物です」
『今日は玲は休みだぞ』
「えっ…何かあったんですか?」

確か昨日玲が言っていた筈だ。
4年生は今日から5日間、研修旅行だ、と。
もちろん蘇芳もその場にいた。

「………」

そういえば、と言いたそうな顔をして蘇芳は柊を見つめる。

『とりあえず玲の分も三人で分担して…』
「蘇芳、息抜きに園遊会の練習を見に行かないか?」
「え?」
『はあ?』

残はにっこりと笑顔で言い放ち、がっしりと蘇芳の腕を掴んだ。
ずるずると引きずられながら蘇芳は、

「会長、業務が……」

いつもの通りに言うも、

「書類なんていつでも出来る」
「いや、あの、今日までの物も…」
「まぁまぁ、いいから」
「か、かいちょ…」
「いいからいいから」

半ば強制的に連行されていった。
残された柊はというと…

『……あ、そこの君』
「へっ?」

ちょうどそこを歩いていた生徒に書類の山を渡してしまい、

『すまないが学生会室の机の上に運んでおいてくれ』
「は……はあ、分かりました…」
『よし、ありがとう』

真面目にしているようで実は楽しそうな事を考えている
残のような眼差しで礼を言うと、二人が歩いて行った方へ走り出した。




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