あなただけをいつまでも

□FILE-7 我が心に君深く
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「鷹村先輩、この書類なんですが…」
「……」
「…鷹村先輩?」

その日、蘇芳は心ここにあらずだった。






FILE-7 我が心に君深く






『どうした?』
「あ、柊先輩…――鷹村先輩が…」
『…』

ひょいと蘇芳の目の前に顔を近付けるものの、
目の焦点が定まっていない。
物思いに耽っているというか、憂い顔だ。

『蘇芳、どうしたんだ?』
「……あ、いえ…何でもありません」
『何でもなくはないと思うが』

呆れ顔玲の手にある書類の束を指す。

『お前に用があるそうだ』
「あ…何だ、伊集院」
「この書類に目を通して頂きたいのですが…」

遠慮がちに束を差し出すと、蘇芳は薄く微笑んでそれを受け取った。
しかし集中が出来ないらしく何度か溜息をついている。

少し離れた所で玲が心配そうに聞いてきた。


「鷹村先輩…お体の具合でも悪いんでしょうか」
『そうではないようだが…』
「でもさっきからずっとぼんやりと…」
『ふむ』

じーっと蘇芳を観察するように見ていると、
静かに学生会室の扉が開いた。

「遅れてすまない」
『あぁ、残――』
「会長、その藤!」

残の腕の中にある藤の枝を見た瞬間、蘇芳は机に両手を置いて立ち上がった。
三人は驚いて固まっていたが、残は思い出した様に笑顔と共に言う。

「弓道場の外れにある藤があまりにも綺麗だったからな。
 管理している園芸部に頼んで、一枝もらったんだ」
「…そう、ですか…」

それだけ言うと、蘇芳は顔を逸らして椅子に座り直した。
それを見て残は玲に歩み寄る。

「……玲、僕の悪戯がバレたのか?」
「いえ、それはないと思います」

声を潜めて言う残に対し、玲はあっさりと頭を横に振る。
柊も同様で、残から藤を受け取りながら呟いた。

『だったらあんな大人しい訳ないだろうに』
「そうですよ。今頃、会長の机の上には書類が山積みになってるはずです」

玲の正論に残はほっと息をつく。
…が、それならどうして蘇芳の様子がおかしいのだろうと不思議そうに首を傾げた。

確かにおかしい。
あの仕事人間の蘇芳がここまでぼんやりしているのは…。



「――伊集院、この書類はこのまま提出してくれ」
「はい。それじゃ職員室に行ってきますね」

数分後、何とか書類の処理を終えた蘇芳は束を玲に渡す。
学生会室を出ようとした玲だが、それを柊が止めた。

『私も行く』
「何か用があるんですか?」
『まぁそんな所だ』

ぱたん、と扉を閉めながら言い、少し歩いた所で小さく溜息をつく。

「?」
『二人きりなら残が何か聞いてくれるかと思ってな』
「あ…そうだったんですか」
『しかし何があったんだろうか』

歩きながら腕を組んで考え込むも、ピンとくるものがない。

「もしかしたら恋煩い、とか」


沈黙。


『いやまさかそんな事が』
「で、ですよね!」
『……』
「……」


再度沈黙。


『本当にどうしたんだろうな』
「そうですね…」


頭がいいはずの二人にも分からない事はあるのだった。





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