あなただけをいつまでも

□特別FILE-3 乙女の祈り
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「もう少しマシな顔は出来ないのですか」
『…はあ…すみません』

母の言葉に、ほぼ機械的に頭を下げる。

慣れない実家の空気、枕、布団。
眠りについたのは空が白み始めてから。
そして気を抜けない「お見合い」。

気分が最低なのだから、「マシ」な顔など、出来るわけもない。

「その着物は自分で?」
『はい』
「…帯が少し曲がっていますよ」

言いながら軽くため息をつき、母は娘の帯を整える。

『母上、聞いてもよろしいですか』
「何です」
『…今回のお見合いの…相手はどなたでしょう』

相手を知らない。
眠れなかった原因の一つだ。

相手がどんな性格で、どんな顔で、どんな家柄で、どんな事をしているのか…
年すらも、聞かされていない。

「あら…如月が教えませんでしたか?」
『え、如月がいるんですか?』

偲隠如月。
柊の双子の弟だ。

普段は遠く離れた学校に通い、寮に入っているため家にはいないのだが、
姉がお見合いをすると何故か知り、ここに戻ってきているのだという。

『生徒会長がそんな簡単に…』
「いいではありませんか。好きにさせておあげなさい」
『母上は如月が何をしているのか、ご存じなのですか?』
「知りはしませんが、予想はできます」
『…?』







一方、残はというと…


「お、み…あい…?」
「わあっ!」

玲から受け取ったカップを落としたところだった。
運よく玲がキャッチしたため、その下にあった書類たちは汚れずに済んだ。

「そ、それはどこからの情報だ、蘇芳」
「柊さんの弟さんです」
「弟さんいらっしゃるんですねぇ」
「信用してしまっていいのか!」
「……」

蘇芳は如月の様子を思い出す。

――「っていうか君にだって教えたくないし」
――「見合い相手は僕が調べるから、蘇芳は絶対邪魔しないでよ!」
――「姉上に手を出す魔獣は僕がぶっ潰す…」

…いつも通りだった。

「嘘をついている様子ではありませんでした」
「じゃあ相手は?」
「いえ、そこまでは彼もまだ知らないようで」
「……」

暫く真剣な顔で腕を組んでいた残だが、電話に手を伸ばそうとして…やめ、
そしてまた電話に手を伸ばし……またやめ、
数回それを繰り返した後、脱力したように椅子に体を預けた。

「先輩に電話してお聞きになればいいのに…」
「会長も思うところがあるんだろう」
「そういうものなんですか?」
「そういうもの…だと思う」






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