あなただけをいつまでも

□FILE-6 舞踏会の手帖
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「しかし…」

残は足を組んだ。

「これだけの数となると…冗談じゃ済まなくなってきたな」
『初めから冗談じゃないだろ』

柊は学生会室を見渡す。
どこを見ても≪舞踏会を中止しろ≫と書かれた紙が張ってあるのだ。

「僕の靴箱にも入ってたんだ」
『まるでラブレターだな』
「一体誰なんでしょうか…」

紅茶のカップを置きながら、玲が不安げに柊を見やる。
しかし犯人が分からないのは柊も同じだ。

『気楽に見えるCLAMP学園だが、やはり外部侵入者のチェックは厳しい』
「そう。だから不審者が校内をうろつくのは不可能のはず」
「じゃあ…」

玲は息をのんだ。

「犯人は…関係者の方ってことですか?」
『まぁ…そういうことになるな』
「そんな!皆が≪舞踏会≫を楽しみにしているのに…」

そんな玲を見て、柊は長く息をはいた。
室内に張ってある紙を剥がし始める。

『舞踏会…だけなんだな…』
「え?」
『CLAMP学園は行事が多いだろう?この前の野球大会もそうだ』

なのに、と言葉を続ける。

『どうして犯人は≪舞踏会≫だけ止めさせたがるんだ』
「…踊りが苦手な方でしょうか…?」
「舞踏会は自由参加だ。踊れないんなら出なくても良いんだぞ」
「うーん…そうですね」

考えても答えが見つからない。
…のは男三人だけのようで、

数分後、すべて剥がし終えた柊は言った。

『ま、頑張って犯人を見つけてくれ』
「柊さん…」
『私は舞踏会を中止してもいいと思うが、そこは残に任せる』
「…任せる、か」

残は笑った。

『出掛けてくる』
「どちらへ?」

蘇芳が聞いたが、彼女は『少しな』と言っただけで部屋を出て行ってしまった。






数日後――

〜ガメラ館〜

「明日は舞踏会ですね」
「あぁ。何とか当日には間に合いそうだな」

今日は明日の舞踏会に備えての最終チェックの日。
今日ばかりは残もきちんと仕事をする。
ちなみに残は、高い所から全体に指示を出していた。

『……』
「どうかしましたか?先輩」
『…いや』

張り切る生徒たちとは違い、柊は浮かない顔。

『何か…嫌な予感がするんだ』
「え?」
『…残の所に行ってくる』

はっきり言って、柊の勘は当たる。
感覚が研ぎ澄まされている、というのだろうか。
柊は走りながら、言いようもない≪何か≫をひしひしと感じていた。

階段を上がり、残の背中が見える。
それでもまだ≪何か≫は消えなかった。

『……――!』


いきなり誰かが残の背中を押した。
手すりを乗り越えて、残の体が落ちる。


あっという間の出来事に柊は、声を出すことも出来なかった。

『………』

呆然と突っ立っていたが、数秒後に我を取り戻す。
急いで手すりに駆け寄って身を乗り出し、下を見た。

『残!怪我は…っ!』
「…僕は…大丈夫だ…」

下ではもちろん大騒ぎになっている。
残の下に蘇芳がいて、きっと蘇芳が残を助けたのだろう。

「蘇芳…無事か?」
「……大丈夫です」
『!』

蘇芳の仕草にピンと来た柊は、その場から飛び降りた。
ふわっとスカートが広がるがそんな事を気にする柊ではない。

綺麗に着地すると、蘇芳の右足首に触れる。


「っ…」
『…挫いてるな。誰か担架を』
「はっ、はい!!」
『……』

走っていく玲を見送り、そして残の顔を見つめる。

『――見たか?』
「いや…」
『…そうか』






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