あなただけをいつまでも
□FILE-6 舞踏会の手帖
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〜CLAMP学園・サラダボールドーム〜
今日ここでは、≪CLAMP学園初等部野球大会≫が行われていた。
もちろん残が企画したものだ。
≪パンダさん組≫のピッチャーは蘇芳。
蘇芳の腕から放たれるボールは、どのバットに当たることなくキャッチャーミットに収まっている。
凄まじい速さのボールを投げているのにもかかわらず、蘇芳に疲労の色は見えない。
「さすが鷹村先輩!凄いスピードですねっ」
「やはり蘇芳相手に一点取るのは至難の業だな…」
『……』
肩を落として帰ってくる男子生徒。
柊は彼に歩み寄った。
『私が行こう』
「えっ、あ、あの、柊様…」
男子生徒の声などに耳をかさず、柊はバットを奪った。
「しかし蘇芳をパンダさん組に取られるとはな…」
「この野球大会は抽選でしたからね」
こぽこぽと紅茶を注ぎながら玲が言う。
「僕と会長と柊先輩は≪ペンギンさんチーム≫だったんですが」
「≪会長≫じゃなく≪監督≫と呼んでくれ、玲」
『…よし、何とか打ってみよう』
「あ、そうだ柊…」
何かを思いついた様子で、残は柊の耳元に口を寄せた。
ほんの一言二言、言っただけでウインク。
『……なるほど…分かった、やってみよう』
一回頷いて、柊はバッターボックスに入る。
ちなみに柊は運動神経は抜群だが、野球はやった事がない。
「……」
『……』
さすがの蘇芳も、柊に向かって投げるのは躊躇われるようだ。
しかしそれでは進まないし、終わらない。
蘇芳は一瞬でも早くこの野球大会を終わらせ、
残に業務を片付けてもらいたいのだから。
少しの間何か考えていた蘇芳だが、やがて頷いた。
塁に出ている者がいないため大きく振りかぶる。
『…――』
――グリップを短く持つ
蘇芳の手から放たれたボールは、この日一番のスピード。
『――フッ!』
――カキーンっ!
見事なフォーム、とはまさにこれだ。
柊が振ったバットは綺麗に中心を捕らえ、ボールは導かれるように飛んでいく。
「わああっ!ホームランですよ柊先輩っ!」
ベンチから玲の喜ぶ声が聞こえた。
…が、この時点で試合は八回裏。今更一点入れたところで結果がかわる事はなく…
結局、パンダさん組の勝利だった。
FILE-6 舞踏会の手帖
「やはり体育系は蘇芳と別チームになると不利だな…」
「柊先輩のホームラン、かっこよかったんですけどねぇ」
『ありがとう』
柊が初回から出ていればまだ僅差での敗北になったかもしれないが、
もう済んだ事だからと残と柊はあっさりしていた。
「でも、どうして会長は試合に出ないんですか?」
「『あ!』」
「……」
ぎくりと、残の笑顔が強張る。
「…他の生徒に花を持たせるのが会長の務めだからな…はっはっは」
「?」
「伊集院、会長の前で運動の話は禁句だ」
こっそりと玲に耳打ちする蘇芳。
思わず声を上げそうになる玲だったが、残の方を見て何とか堪えた。
「で、でもいつか、木の上から飛び降りた時は…」
「それは泣いている女性を発見した時だったから。女性が絡むと運動神経が繋がるんだ」
「そうなんですか…」
『正直どんな体をしているんだろうと思うがな』
呆れたようにため息をつくと、柊は先に行ってしまった残を追いかけて走っていった。
その背中を見て…玲は気付く。
「どうして先輩たちはご存じなんですか?」
「え、あ……」
蘇芳は苦笑を零す。
「ちょっと、色々あって…」
★
柊は初等部学生会室の扉を開ける。
だがその中は、いつもの学生会室ではなかった。
『…なんと、』
「どうした、柊…」
『……』
扉を大きく開けて、三人に見えるようにする。
「「!」」
「これは…!」
――≪舞踏会を中止しろ≫
そう書かれた大きな垂れ幕が、学生会室の窓を覆っていた。
『…留守中に誰かが入って来たのか…』
「誰がこんな事を…!」
「……」
残は布を引っ張り、床に落とす。
「少なくとも…一週間後の≪初等部・幼等部 合同舞踏会≫を止めさせたい人間がいるらしい」
『……』
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