あなただけをいつまでも

□特別FILE-2 親愛なるきみへ
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「よし!では調査に向かう!」
「はいっ!」

元気なのは残と玲。そしてそれにつられている夜彦。
蘇芳は恐らく明日明後日の業務について考えているだろうし、柊は絶不調のままだ。

「探偵団って何かわくわくするなぁ…」
「だろう!」
「あっ、でも…偲隠さん、大丈夫?休んでた方がいいんじゃない?」

残の後ろにいた柊を気遣い、歩くペースを落とす夜彦。
それを見て残も若干慌てた様子でペースを落とした。

「そ、そうだぞ柊、医務室に行こう」
『いい。私が持ち込んだ依頼だしな』
「だったら僕が偲隠さんの代わりにいっぱい働くよ!」
「しかし君は依頼人だし…本来なら調査に同行させるわけにはいかないぞ」

確かに、危険が伴う可能性もあるかもしれない。
そう言うと夜彦は柊の体を支えながら首を振った。

「僕、妹之山くんの≪女性を大切にする姿勢≫を見習いたいんだ。一緒にいればそれが分かるかも…って、」

そこで自分が柊に触れている事に気付いたらしく、

「わあっっ!?」
『ん?』
「あっ、その、ごめんね!」
『何が』

慌てて離れたが、柊はその慌てた様子に首を傾げただけだった。

「あの…鷹村先輩」

こっそり蘇芳に耳打ちする玲。

「薬師寺先輩って柊先輩のこと…」
「まあ…慕っているんだろう、な」
「でも柊先輩はそのこと」
「知らないのか、気にしていないのか」

傍から見れば一目瞭然なのだが、柊は気付いていない…のかもしれない。
そして残が不思議と柊と夜彦の事を気にしているのかも…

「会長もやきもきしてますねぇ…」
「そうだな…」





「目撃情報が全くあがってこない?」
「はい」

蘇芳はきっぱりと頷く。

「一週間聞き込みをしましたが、これといって」
「見られるのを嫌う幽霊か…?」
「というより…むしろ今までに≪見た≫と言っているのは…」

言葉を濁しながら蘇芳が見るのは柊と夜彦。
確かに、見たと言っているのは彼女と夜彦の父親だけ。
噂で広がっているのはほぼ病院内だけで、その幽霊の事を知っている人は少ないのだ。

「あっ、でも僕の妹が…」
「幼等部A組だったな」

さすが残、女生徒の事なら完璧だ。

「双子なんだけど、どっちも母を見たって言うんだ。幽霊だとは思ってないみたいだけど」
「どこで?」
「ええと…確か自宅…だったかな」
「場所がバラバラだな…」

院長が見たのは薬師寺病院の屋上。
柊が見たのは校舎の文化棟。
そして双子が見たのは自宅。

『となると、場所というより人か』
「人って…じゃあ幽霊さんは、自分を見せたい人の前に現れるって事ですか?」
「ご家族はそうかもしれませんが…」

それでは柊の前に姿を現したのは何故なのか、という話になる。
柊は夜彦の母親と面識などないし、写真を見て初めて認識したほどだ。

「じゃあ薬師寺先輩のお母さんは柊先輩を知っていたとか」
『私を?接点はないと思うが…』
「あ……」
「薬師寺くん?」
「…」

何故か黙り込んでしまった夜彦。
その顔は真っ赤に染まっている。

「えと…母さん、多分偲隠さんの事知ってる…よ」
『え?』
「と言っても柊さんはその道では有名な方ですし、知っていても不思議は…」
『それはそうだが』

一応お嬢様で、一応武術の名門の出だ。
しかし聞くところによると夜彦の母親は気弱、というより大人しく淑やかで、
武術とは縁のないまさに本物のお嬢様だったらしい。

『私を知っているとは思えないがな…』
「…それもそうなんだけど…」

ごにょごにょと呟く夜彦。
彼はふと腕時計を見て、「あっ」と声を上げると、慌てて立ちあがった。

「そっ、そろそろ妹たち心配するだろうから帰るね!」
「あ、本当だ。僕も帰って晩ご飯作らなきゃ!」

針はもうすぐで六時を差そうとしていた。

「今日はお開きにするか…」
「ごめんね、お疲れ様です」
「また明日!」

急いで帰っていく夜彦と玲を、残は静かに眺めていた。








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