あなただけをいつまでも
□特別FILE-1 異世界からの訪問者
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「…と、言う訳でー、俺たちは異世界から来たんですー」
白い男はファイ・D・フローライトと名乗った。
どう考えても日本の名ではない。
残たちは≪異世界≫と言われてもピンとこない様子だったが、柊は違った。
どこかで聞いたような気がするのだ。
「ファイさんですね。ではあなたは?」
残が視線を向けると少年は何故か緊張した様子で体を強張らせる。
「俺は小狼です」
『…しゃおらん、さん』
「はい」
『………しゃおらん』
「…はい」
どこかで聞いた事がある。絶対に。
珍しい名前だ、忘れる事などありえない。
必死に思い出そうとしていると、ポケットが重くなった気がした。
何だろうと思いつつポケットの中身を取り出すが、それはこの前頭に落ちてきた物体…
――小狼に渡して
『あっ!』
急に思い出した。
夢に出てきた≪異世界≫の自分とやらが≪小狼≫に渡してと言って押し付けてきた物。
そういえばこんな形、質感だった。
『小狼に渡してと…私が言っていたんです』
「俺に、ですか?」
お互いにこれが何なのか分かっていないが、とりあえず渡しておいた。
「…で、この子がサクラちゃん」
ファイが少女を見る。
穏やかに微笑んでいるサクラからは、
どんな人にも好かれそうな優しいオーラが出ているように思えた。
「この人はお父さん」
「黒鋼だ!」
「威嚇するけど怖くないからね」
黒い男は見た目の通り黒鋼という名。
名は体を表す、という事か。
「で、俺らのアイドルの」
「モコナー!!!」
「…ぬいぐるみ…?」
「ぬいぐるみじゃなくてモコナー!!」
「うわっ」
ぬいぐるみがぴょーんと飛びかかってきたが、
蘇芳の頬に当たるとぽよんと跳ね返った。
「どういう仕組みなんだ…?」
「不思議ですねぇ…」
蘇芳と玲はふにふにとモコナ耳やら腹やらを触り始めた。
それを横目に、残は聞く。
「前は何という国にいたんですか?」
「疑わないんですか?」
「もちろん」
にっこりと微笑む残だが、疑わない理由はただ1つだろう。
≪何も知らないまま女性を疑うわけにはいかない≫。
静かに柊はため息をついた。
そして、ファイの話をまとめると…
この一行はそれぞれ目的があり、それを果たすために異世界を転々としている。
その目的の中でも一番の目的が、≪羽根≫を集める事。
その羽根はサクラの記憶の欠片らしい。
恐らくこの世界にも羽根があるだろうとの事。
前はピッフル国というところにいた。
(そこでも残や柊たちに会ったらしい)
ピッフル国の柊は残のSPで、蘇芳や玲もそうだという。
「残くん、女性にすっごく優しかったよねぇ」
『あー…そりゃそうでしょうとも…』
たとえ異世界の存在だとしても残が女性に優しくないなど考えられない。
むしろありえない。ありえるはずがない。
「レースの時はファンがいっぱいだったしー」
「「「『レース?』」」」
「あ、そうそう、俺たちピッフル国でレースに参加したんだ」
サクラの羽根が優勝賞品で、レースに参加するしかなかったのだとか。
「レースの時の柊ちゃんかっこよかったよ」
「あとあとー、レースの後に気球が襲われた時のパンチキックの嵐ー!」
「知世ちゃん危機一髪だったよねぇ」
「レースで残を助けて柊も怪我してたのにねー」
興奮した様子でモコナはぴょんぴょんと部屋を跳ねて回る。
そこでようやく思い出したが、部屋の中は書類が散らばって足の踏み場がないくらいだった。
積み上げておいたものが、一行が落ちてきた衝撃で崩れたのだろう。
『………』
「あの…手伝いましょうか…?」
『いえ、お客様にそんな事させられません』
にっこりと笑うと柊は残の首根っこを掴んで立ち上がった。
休憩は終わりだ。
「柊、今はサクラさんの羽根を…」
『お前が本気を出せば二時間くらいで終わるだろう』
「皆さんはくつろいでいてください」
「じゃあ僕はお茶のおかわりを…」
「「「「「……」」」」」
一行は思った。
あの御曹司は、この世界では尻に敷かれているんだなと。
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