あなただけをいつまでも

□FILE-4 マイ・フェア・レディ
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初等部6年Z組。
休み時間に入った途端、残は大勢の女生徒に囲まれる。

「残様!」
「チョコ、貰って頂けますか?」
「もちろんですよ」

残は微笑んで席から立ち上がった。

「僕などの為に、お時間をさいて頂いてありがとうございます」
「う、上手く作れなかったんですけれど…」

女生徒はおどおどとチョコを手渡すと、

「貴方がお作りになったものなら、僕にとってはどんな1流コックの手によるものより美味しいですよ」
「ありがとうございます!残様!」

残節が炸裂する。
あんなセリフをよくもまあ簡単に言えるものだ、と柊は内心ため息。
彼女からすれば、何故あんなセリフを言われただけで女生徒たちは頬を赤くするのか
まったくもって分からない。

「柊さん…」
『……チョコなら残に渡した』

朝、柊に残へのチョコを預けた女生徒が近寄ってきた。
窓の外を眺めながら呟くと、女生徒は違うんですと首を横に振る。

「私たちと同じ時に、1人の男子があなたにチョコを渡していましたでしょ…?」
『…そうだったか?』
「柊さん、彼は前からあなたを好いていますの」
『………………はあ?』

その男子生徒が誰かも分からないのに自分を好いていると言われてもピンとこない。
というか男子生徒がチョコを渡してきたかも定かではない。
あの時は渡されるチョコは全て残宛てだと思って、差し出した相手など見ずに受け取っていた。

「隣のA組の薬師寺夜彦…」
『あぁ、彼か』

名前は一応知っている。
ただ面と向かって話した事はないせいか、顔くらいしか思い浮かばない。
どんな生徒だったか思い出そうとした、その時、

柊の後ろでバンッという大きな音がした。

「ちょっと騒がしいんじゃありませんこと?」

京極緑子が机をたたいた音だった。

「教室は勉強をする所。むやみに騒ぐ為の場所ではありませんわ!」

緑子は残を取り巻いている女生徒たちに言った。
今は休み時間だ、少しくらい騒いでもいいだろうと柊は思う。
まああの取り巻きたちは≪少しくらい≫ではないくらい騒いでいたが。

「――申し訳ありません」

残が立ち上がり、優雅に礼をする。
すると緑子はガタンと音を立ててまた椅子に座った。

『……』




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