あなただけをいつまでも

□FILE-3 迷走迷路
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――起きろ。
『………』
――あ、本当に起きるなよ。夢から醒めては困る。
『………?』


どこかで聞いたことのある声だと思い、柊は薄く眼を開けた。


――……? どうした?
『……』


絶句した。
どうして、目の前に自分そっくりな人間がいるのか。


『――…そうか、夢だからか…』
――んー、まぁ、そうだな。少し言いたいことがあるんだ。


目の前の柊そっくりの人間はそっと自分の髪を撫でる。
見た目も話し方もそっくりだ。
違うのは、相手は黒いスーツを着ている事…
あと向こうの方が若干年上だという事か。


――さて……私はお前。お前は私。…私は異世界のお前だ。
『……』


柊は顔をしかめた。
この…自分そっくりな人間は、いったい何を言っているのだろう、と。


――ふふ、そういう反応も仕方ない事だな。
『異世界…?とか…急に言われても…』
――異世界。そことは違う世界。


お前がいる世界と私がいる世界は違う。
お前の世界でいくら探しても、私はいない。

私の世界にも残、蘇芳、玲はいる。
みんな、そっちの世界と同じ人。
いる場所は違うけれど私とお前は同じ。
魂は同じ。切っても切れない繋がりがある。


――…ま、私も人から聞いただけだから、あまり分からないんだがな。


そう言うと、彼女は薄く笑った。
柊は…違うと思った。
私とこいつは同じ顔をしているけれど、少し違う、と。

柊にあんな笑い方はできない。


――次に行く世界の私と話せるようにしてもらったんだ。
『え…?』
――それでお前に頼みたい。
『……』


首を傾げると、目の前の女性は歩み寄ってきた。
そして柊の手をとると、何かを握らせる。固いものが手に当たった。

しかし、手を開いてみても何もない。


――小狼に渡して。
『しゃお…らん』
――優しい子。私は彼に助けられた。その礼だ。
『…よく分からないが…渡せばいいんだな…?』


とりあえずそう言うと、相手は微笑んだ。
ありがとう…そう口が動くのが見えたのが最後。

急に周りが暗くなってしまった。



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