あなただけをいつまでも

□FILE-2 探偵
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理事長室…


「どなたもいらっしゃいませんね」
「僕らが捜査しやすいように、書類が無くなったままにしてあるそうだ」

すると玲はゴミ箱に手を突っ込んだ。

「「?」」
「んー、ゴミ箱の中じゃないみたいですね」
『ふふっ』
「……さ、さて、担任編成リストが無くなった状況だが…」

赤くなった頬を隠すかのようにコホンと空咳を一つし、残は話し始める。



理事長が書類を書き終わったのが今日の2時13分。約2時間前だな。

理事長は担任編成終了後、
遅い昼食をとる為に理事長室を退室。

その後忘れ物に気付いて5分後に戻ると、
担任編成を書いたリストはなくなっていたそうだ。



「その間理事長室は?」
「もちろん無人。そして鍵が厳重に掛けられていた」
『………』

柊は理事長室内を見回す。
もちろん理事長室とだけあって、とてつもなく広い。

机の上には新しい桃の花が生けた花瓶が置いてある。
ただ、風にでも吹かれたのか、机の上に花ごと散っているものもあった。

『…残、この窓は?』
「そのままにしてあるということは開いていたんだろう」

机のすぐ近くの窓。
しかしここからの侵入は不可能だろう。

理事長室は10階で、外壁に足場はない。
道具があれば蘇芳や柊でも上がってこられるが、
この理事長室には数限りない、≪防御システム≫がある。

窓から入ろうとしても撃ち落とされるのがおちだ。

「ここから落ちると痛いだろう…」
「痛いじゃすみませんよ」

冷静に呟き蘇芳は窓を閉めた。

「CLAMP学園の担任編成リストとなると、関係者以外にはただの紙切れですね」
「時間的に幼等部以外は初等部・中等部・高等部、すべて授業中です」
『しかし担任制は無い大学部には関係ない…』

柊の言葉に、そうですね、と玲は頷いた。
すると、残があたりを見回す。

「理事長。…理事長、見てらっしゃるんでしょう?」
「「?」」

そのとき、残の言葉に反応したかのように、壁がモニターに変わった。

「わっ…」

つまり壁だと思っていたものは実はモニターで、
壁の色をしていただけにすぎないという事だ。

≪ほほほ…、相変わらず残さんは勘がよろしいこと…≫

モニターに理事長の姿が映った。
簾のせいで目から上は見えない。

「理事長、お伺いしたいことがあるんですが」
≪なんですか?≫

残はあの開いている窓を指す。

「あの窓なんですが…」
≪いつもは閉まっているのですが、今日は特別、お天気が良かったので開けておいたのです≫
「今日だけ開けたのですね?」
≪……えぇ。その通りです≫

優雅に微笑む理事長。
編成リストが無くなっていると言うのに、随分と気楽だ。

『…私も聞いてよろしいですか』
≪どうぞ≫

軽く頷いた理事長から目を離し、机の上の花瓶を見つめる柊。

『その≪担任編成リスト≫とは、紙…では無い、ですよね』
≪…はい≫
「「「えぇええ!?」」」

驚く3人の声を背に、柊は溜息をついた。
すると理事長は上品に笑う。

≪誤解があったようですね。担任編成を記したものは紙ではありません≫
「紙ではない?」

では何?とでも聞きたそうに残は呟く。

≪マイクロフロッピーに収めました≫
「「「『マイクロフロッピー?』」」」

見事に4人の声が重なった。

≪幼等部から高等部までの担任編成は、かさばるといけませんのでコンピューター処理し…≫

理事長は扇子を開く。

≪我がCLAMP学園電子工学科が世界に先駆けて開発したフロッピーに入れました≫
『……それ、と同じ物ですか?』

柊が指差したのは理事長の扇子。
…に、挟まっている1センチ四方のもの。
よくよく見ると、小さいものの、きちんとフロッピーの形をしている。


≪はい≫
『…かさばると言ってもマイクロフロッピーに収めるほどでは…』
「そうです。確かあのフロッピーには8インチディスク30枚分が入るはず…」

残が戸惑いながらも言う。
すると…

≪面白そうでしたので≫
『…そう…ですか』

4人は肩を落とした。

「確かCLAMP学園の理事長さんはこの学園をおつくりになった≪妹之山財閥≫の創始者で…」
『残の血縁だな。確実に。絶対に』
「面白いことはなんでもお好きなところがそっくりですからね」




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