あなただけをいつまでも

□FILE-1 地上より永遠に
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「≪クリスマスパーティ≫となると、メインイベントは≪夜≫だな」

CLAMP学園初等部学生会会長6年生、妹之山残が言った。
本気を出せば学生会室に山積みになった書類を簡単に片づける事ができるのに
何故かいつものらりくらりと仕事から逃げている(柊曰く)ダメ会長である。
女生徒からの人気が半端ではない。

『夜のパーティか』

様子を思い浮かべるかのように右斜め上に視線をずらすのは、
3年前に編入してきた6年生偲隠柊。
会長秘書を務めている。

「星が綺麗だといいですねっ!」

紅茶を出しながら笑顔で言うのは、
会計4年生、伊集院玲。
家事全般が得意で、料理の腕は小学生とは思えないほどだ。

『そうだな。……ただ…』
「ただ?」
「会長、見えてきました」

柊が口を開いたが、書記5年生、鷹村蘇芳の言葉で遮られた。
蘇芳は柊の遠縁の親戚で、非常に生真面目。
柊と同じく残のサボリ癖にいつも手を焼いている。

「今年のクリスマスパーティ、会場候補の≪東京タワー≫です」




FILE-1 地上より永遠に




「おお、どれどれ」

今4人が乗っているのはとてつもなく巨大な気球で、≪CLAMP学園≫という文字がでかでかと描かれている。
恐らく地上では大勢の人たちが何事かと見上げているのだろう。

「何故かこういったアングルの東京タワーを見ていると…」

残は紅茶の入ったカップを持ちながら呟いた。

「足蹴にしたくなってしまうのは、昨日レーザーディスクで≪ゴジラ≫を見たからだろうか…」
『知らん』

そっけない柊の隣で蘇芳がデータを読み上げる。


昭和33年3月開業。
全長333メートルで、年間利用者はのべ300万人。
(そこまで見事に≪3≫だらけとは。と残)
(関係者の方はよほど≪3≫っていう数がお好きだったんですね。と玲)


『…で、何故会場を探すのに、わざわざ気球で?』
「そうですよね。どうしてですか?」


すると残は、待ってましたと言わんばかりに玲を指す。

「玲、もし我々が徒歩で東京タワーの下見に来たらどうなる?」
「んーと、学生会費の節約になると思います」
「『(確かに…)』」
「今問題にしたいのは経理面じゃない」

玲がそう言うと、残は首を振った。
それはそうかもしれないが求めている答えではないらしい。
真面目に聞いているのは玲だけだが、恒例の演説紛いのものが始まった。


「東京タワーに徒歩で来てしまったら、僕達は東京タワーを見上げることしかできないだろう。
 それでは東京タワーを作り上げた人たちに失礼じゃないか!
 東京タワーは決して、下から見上げるためだけにあるのではない!
 真横!真正面!斜め下! 等々…様々な角度から検分してこそ、
 東京タワーを作った人たちの真の意図をくみとることができるんだ!」
「『…』」
「さすが会長…っ!お考えが深いですね!」

と、玲だけは感動しているが…

『…東京タワーに来る人の大体が失礼になってしまうな』
「ただ単に面白そうだと思ったんでしょう。派手好きな人だから…」

柊と蘇芳はため息をついていた。

『そういえば去年のクリスマスパーティは…』
「≪クリスマス特別企画CLAMP学園初等部対抗世界一周ウルトラクイズ≫…でしたね」
「優勝者は1ヶ月かけて世界一周旅行だ」
『今年は?』
「今年は…」

残は扇子をバッと開く。
ちなみに今回は「よきにはからえ」の文字。

「今年はなるべく経費を抑えてほしいという玲たっての希望をくんで、ご近所内で済ませよう」
『日本一周くらいか。意外と狭いな』
「ありがとうございます、会長!」

普通の一般人の感覚からしたら、日本一周旅行=ご近所内という式は成り立たない。
CLAMP学園の生徒ならではの特色(?)だ。

「――会長、大展望台が見えます」
『人が大勢いるな…』
「メイン会場はこの大展望台が最適かと」

蘇芳は大展望台を見て言う。
しかし柊は実は東京タワーでパーティを開くという事に賛成していない。
今ですらあんなに人がいるのに、パーティを開くとなると貸切にしなければならないだろう。

クリスマスといえば恋人たちの大切なイベント…
それの妨げになるような事はしたくないのだ。
まだ残には言っていないのだが。

そういえば言わないといけないなと考えていると、
柊の胸ポケットにしまってある携帯から音が鳴った。

『――はい偲隠………はい、分かりました』

少し言葉を交わして通話を切る。

『残、この気球で駐車場におりるのは無理らしい。資料写真も撮影終了したそうだし、一旦…――』
「……」
『…残?』

残は柊を見ていなかった。
食い入るように大展望台を見つめている。

『どうかしたのか?』
「…いや…、何でもない…」
『?』

何でもなくはないだろう、と思ったが…

『………?』

柊には大展望台にしか見えなかった。



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