あなただけをいつまでも

□FILE-0 はじまりのみち
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三年前…


『……………』

目の前に出された紅茶を、瞬きする事なくじっと見つめる偲隠柊。

「どうかされましたか?」

テーブルをはさんで向こう側にいる金髪の少年が聞いた。
しかし、柊は首を振るだけ。

「ふむ…」

少年は困ったように眉尻を下げ、扇子を開く。
ちなみに扇子には「お手上げ」と書いてある。

「何かご不満がおありでしょうか?」
『………』

柊は数秒の間少年を見つめ、ため息と共に口を開いた。

『何の用だ』
「…女性がそんな言葉使いをするものではありません」
『大きなお世話だ。私に何の用だと聞いている』

少年は困ったように微笑み、言う。

「あなたにCLAMP学園に編入してもらいたいのです」
『……面白いな』
「冗談ではありませんよ」
『…』

正面に座っている少年の目は真っすぐだ。
テーブルを挟んでいるのに、逃げられないよう押さえられているような気すらしてしまう。

柊は口を噤んだ。
すると何故か少年は頭を下げる。

「申し訳ありません、そのような表情にさせたかったわけでは…」
『え…』

言われて気付いた。
どうやら眉間にしわが寄っていたようだ。
しかしそこで謝られては柊としても何も言えなくなってしまう。

『…謝る必要などないだろう』
「いえ、女性を困らせてしまうなど…僕とした事が…」
『……』

――こいつ、変わっているな
柊の中で彼に対する印象がほんの少しだけ変わった。

第一印象は≪へらへらして掴みどころがない≫。
柊が最も嫌いなタイプだ。

だが…

『お前の名は?』
「え?」
『名前』

もしかしたら違うのかもしれない。
そう思えた。

そっと手を差し出すと、少年は少し驚いたように柊を見てから、
おそるおそるといった様子で握手に応じる。

「妹之山残…といいます」
『そうか。柊と呼んでくれ』
「編入の件は……」
『…早くても来月になる。構わないか?』
「はい!」

少年――残は、その日初めて心からの笑みを見せた。
少なくとも柊はそう感じた。



三年前の、桜散る初夏の日の事だった。




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