崩牡丹

□忍術学園全員出動!
4ページ/12ページ



…で、
オーマガ組は選抜隊のきり丸しんべヱと合流したのだが、
何故かしんべヱが普段よりも丸々と太っていた。

「他のみんなはどうした?」
「僕ら物売りに化けて調査してたんすけど、腹を減らしたしんべヱが売り物を全部食べちゃって」
「太って動けなくなっちゃったんです」
『ふーん…相変わらず凄いねぇ』

頬など餌を詰め込んだ栗鼠のように膨らんでいる。
思わず人差し指でつついてみると、これが素晴らしい弾力。

「オーマガトキの様子はどうだった?」
「それが妙なんすよねぇ」

解せぬ、といった表情で説明をし始めるきり丸。

山一つ向こうまで敵が迫ってきているというのに、緊張感に欠けているらしい。
負け戦なのだから士気が下がっているのは当然だが、これはおかしい。

『……』
「先輩、真剣な表情でしんべヱのほっぺ突かないでくださいよ」
『あ、ごめん…けどこれなかなか…』

つんつん。

「あと、これは噂なんだけど」
「うん」
「オーマガトキ城主の大間賀時曲時が城内にいないらしいんすよ」

つんつん。

「え、戦の真っ最中に?」
「本当なら大変な事じゃないの?」
「大変だよ」

むにむに。

「もし今タソガレドキが攻めてきても、オーマガトキは戦うどころじゃないぜ」
「……影四郎、」
『はい?』

乱太郎と金吾と団蔵もしんべヱの頬に群がっている中、
土井先生が苦笑しながら影四郎を呼ぶ。

「どう思う?」
『あ…そうですね、それでもタソガレドキは攻めてこないというのがどうも…』
「……」
『どうしますか?』
「…とりあえず…――お前たち、」

しんべヱの頬と戯れている五人に声をかける。

「私は選抜隊と連絡をつけてくる。お前たちはここで待機していろ」
『分かりました』

影四郎が軽く頷くと土井先生は素早く木の枝に飛び乗って、あっという間に遠くへ行ってしまった。

「私たち、待機しに来たわけじゃないのに…」
「そうだよね」
『(私だって仕事があるのに…)』
「じゃあそうじゃなくしよう」

言いながらきり丸はかごの中に手を突っ込み、何かの布を取り出した。
広げるとそれはオーマガトキの夫丸の制服だ。

『これどうしたんだ?』
「持ってきた弁当を生米と取り替えて…」

生米を酒と取り替え、酒を胡椒と取り替え、胡椒を制服を取り替えた。らしい。
まるでわらしべ長者だ。

「凄く大きな制服だね…」
「これを太って頭の大きくなったしんべヱに着せれば、夫丸として潜入できる」
「身長は?」
「肩車すればいいんじゃない?」


というわけで試してみたのだが、ただでさえ重いしんべヱなのだ。
普段より太っているのだから肩車などできるはずがない。

「綾部先輩やってみてくださいよ」
『嫌だよ』

本当なら止めた方がいいのだろうが、どうせうまくいくはずがない。
気の済むまでやらせておく事にした。

『私は水を汲んでくるから、大人しくしているんだよ』
「はーい」

返事だけは一人前なのに、と若干失礼な事を考えながらその場を離れる影四郎。
少し山を下りたところに綺麗な小川が流れていて、そこで竹筒で水を汲む。

『……ん…?』

かさ、と木の葉が擦れる音。
風かと思ったが違う。人の気配がする。

『…あれは……』

少し離れたところオーマガトキの夫丸の制服が見えた。
しかし相手はこちらに気付いていないのだろう。

結局顔を見る前に、制服を着た何者かは歩いていってしまった。
色々と怪しい匂いがするが一年生を放っておいて後を追う訳にはいかない。

影四郎は一応さきほどの場所まで戻ってきたのだが…

『…………いない』

荷物(といってもかご一つだが)はある。
しかし五人がいない。夫丸の制服もない。

『大人しくしていろと言ったのに…』
「影四郎」
『あ…土井先生』

考える前に土井先生が影四郎の目の前に飛び降りてきた。

「乱太郎たちは?」
『それが…少しここを離れた隙に…』
「…予感的中か…」

がっくりと肩を落とす土井先生。
影四郎が謝ると、薄く笑って彼の頭をぽんぽんと軽く撫でた。

「探しに行こう。遠くまでは行っていない」
『はい』


………
……



「あれは…」
『…タソガレドキの忍者、ですね』
「あいつらつけられているな…」

日が暮れ始めた。
ようやく乱太郎たちを見つけたと思ったら、
どうやらタソガレドキの忍者に尾行をされているようだ。

『何故タソガレドキ忍者に…』
「とりあえず追い払う。お前はそのままあいつらのところへ降りてくれ」
『分かりました』

一応手にクナイを持っておく。
土井先生が忍者に手裏剣を打つと、やはり相手も忍者。
気配で察知し、見事に避けてしまう。

クナイで攻撃をしかける土井先生を尻目に、影四郎は乱太郎たちの近くに飛び降りた。

「綾部先輩!」
『お前たち、大人しくしていろと言っただろう』
「僕だって安静にしろと言った!」
『なっ……んで伊作がここに?』
「それはこっちの台詞だよ」

頭上で二人の忍者が戦っている事を忘れ、首を傾げる影四郎。
安静にしていろと言われた事など頭の中からとっくに消えていたのだ。

『薬飲んだんだから多分平気…』
「走りまわったら意味ないに決まってるだろ!!!」





.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ