龍 神 の 詩 −暗鬼編−

羽根の姫 - 龍か鳥か
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「龍は細長いから、穴を塞げないんじゃないの」

 たいていの人なら、『それは与羽(よう)らしい。さっそくやろう』といった反応をするだろうが、辰海(たつみ)は冷静に判定した。

 言われてから、雷乱(らいらん)もはっと龍の形状を思い出す。


「いや、でもとぐろを巻いた龍なら――」

「形だけじゃ、とぐろを巻いた龍だって気付けないよ。って言うか、龍ってとぐろ巻くの?」

「『長いものには巻かれろ』って言うな。長けりゃ巻けるんじゃねぇか?」

「……わざと言ってるの? 意味が分からないんだけど……」

 こういう理解に窮(きゅう)する屁理屈を言うところは、与羽に似ている。

 ただ、与羽の場合は、相手を煙(けむ)に巻こうとしている時や、ただ相手を困らせたい時など、考えてそういう言い方をするが、雷乱の場合はわざとなのか、素(す)で思考回路がおかしいだけなのか分からない。

 三、四年前に敵国からやってきた彼を完全に理解できるのは、まだまだ先のことだろう。


「小娘なら理解してくれるのにな」

 雷乱は与羽の名前を絶対口にしない。少なくとも、辰海は今まで彼が与羽を名前で呼ぶのを聞いたことがなかった。

「ごめん」

 一応謝って、辰海は障子(しょうじ)の穴に目を戻す。


「木の葉型とかどうだ?」

 雷乱が気を取り直して提案する。

「僕は別に構わないけど、与羽はどうだろう?」

「……確かにな。銀杏(イチョウ)は――? 季節が外れるとダメか」

 今は秋だが、冬や春になれば与羽のこと、文句を言うに違いない。
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