龍 神 の 詩 −暗鬼編−
□羽根の姫 - 龍か鳥か
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「障子(しょうじ)を張り替えろ、ってなぁ」
与羽(よう)の部屋の前で雷乱(らいらん)は呟いた。
庭には昨夜の戦いの名残。与羽の部屋の障子戸には人の手が通るくらいの穴。
「全部張り替えるほどじゃないよね」
新しい障子紙とのり、水、はけなど、障子の張替えに必要なものを抱えた辰海(たつみ)も言う。
「一枚張り替えたら、その戸だけ色が新しくなっちゃって違和感があるから、全部張り替えないといけなくなるし」
今の障子は、日々の日光などでかすかに黄色く変色している。
普通にそれだけを見るなら、気にならない白さを維持してはいるが、新しい障子紙と比べてしまうとやはり色が違う。
「全部張り替えるのは面倒だ」
雷乱が穴の開いた障子戸だけをはずしながら低い声で言う。
「確かにね」
辰海も同意した。
「じゃぁ、どうする? 穴の開いた部分だけ紙を貼ろうか」
「そうだな。適当に丸く切って貼りゃあいいんじゃねぇか」
「それだと、芸がないって怒られそうだけどね」
辰海はどこか不機嫌な顔をした与羽を思い浮かべた。雷乱も同様に遠い目をしている。
たまには、与羽の度肝(どぎも)を抜くようなことをしてやりたい。
「じゃぁ、龍の形なんかどうだ?」
与羽と言ったら、まず龍を思い浮かべる者は少なくない。