龍 神 の 詩 −暗鬼編−
□羽根の姫 - 栗拾い
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緩やかだった上り坂が急になっても、凪(ナギ)の歩く速度は緩まない。
両手でかごを抱えたまま、落ち葉に足をとられることもなく登っていく。細い見た目に反し、足腰は良く鍛えてあった。
この急な獣道を登りきれば、またしばらくの間、緩やかな上り下りの繰り返しになる。
「ふう、登った」
歩きなれていても、疲れるものは疲れる。
凪は一息ついて、前方に見慣れないものを見つけた。
やや遠かったので、一瞬どこかの太い枝が折れて落ちた物かと思ったが、違う。
――人だ。
「ちょ……」
言葉を失いながらも、凪は慌ててうつぶせに倒れたその人影に駆け寄った。
膝まで届きそうな長い髪に、女かと思ったが、近づくにつれそれも違うと気付く。
華奢(きゃしゃ)ではあるが、その体つきは男のものだ。
半裸の状態で、いたるところに打ち傷ができている。
凪はためらいなく彼の傍(そば)に膝をついた。
彼女は薬師(くすし)と呼ばれる一族の娘だ。
その名の通り、薬学や医術を扱う家で、彼女も幼いころからそういう技術や知識を学んできた。
そんな彼女が怪我をして倒れている青年を見て最初に思ったことは、彼の状況や正体を怪しむことではなく、怪我の様子を見て、治すことだった。