龍 神 の 詩 −暗鬼編−

羽根の姫 - 終章
2ページ/7ページ


  * * *


 辰海(たつみ)が几帳面に閉めていった障子戸に映る影を見送り、二人の足音が聞こえなくなった時点で、与羽(よう)は暗鬼(あんき)に視線を戻した。

「舞行(まいゆき)じいちゃんも乱兄(らんにい)も助かるってさ」

 与羽はのんきに言った。

 そして、ふと暗鬼から目をそらす。


「で? あんたは、これからどうするん?」

「何を――?」

 暗鬼は与羽の無防備な横顔を見た。

「どうするん?」

 与羽は暗鬼の方を見ず、繰り返す。


「どうするって――。何を考えてるの?」

「別に何も――。私さ、本当にあんたが悪い奴なら、とっくにあんたをこの町から追い出しとる」

「僕は悪い奴じゃないって言いたいの? 僕は君を殺そうとしたんだよ」

「じゃぁ、何で今は私を殺そうとせんのん?」

 今の与羽なら、簡単に首を絞めて殺せそうだ。


「それは――」

 暗鬼は口ごもった。


「それは、あんたが悪い奴じゃなぁけぇじゃ」

 与羽はきっぱりと言い放つ。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ