龍 神 の 詩 −暗鬼編−
□羽根の姫 - 終章
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辰海(たつみ)が几帳面に閉めていった障子戸に映る影を見送り、二人の足音が聞こえなくなった時点で、与羽(よう)は暗鬼(あんき)に視線を戻した。
「舞行(まいゆき)じいちゃんも乱兄(らんにい)も助かるってさ」
与羽はのんきに言った。
そして、ふと暗鬼から目をそらす。
「で? あんたは、これからどうするん?」
「何を――?」
暗鬼は与羽の無防備な横顔を見た。
「どうするん?」
与羽は暗鬼の方を見ず、繰り返す。
「どうするって――。何を考えてるの?」
「別に何も――。私さ、本当にあんたが悪い奴なら、とっくにあんたをこの町から追い出しとる」
「僕は悪い奴じゃないって言いたいの? 僕は君を殺そうとしたんだよ」
「じゃぁ、何で今は私を殺そうとせんのん?」
今の与羽なら、簡単に首を絞めて殺せそうだ。
「それは――」
暗鬼は口ごもった。
「それは、あんたが悪い奴じゃなぁけぇじゃ」
与羽はきっぱりと言い放つ。