龍 神 の 詩 −暗鬼編−
□羽根の姫 - 二章 孤独な暗殺者
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とてもうれしそうな舞行(まいゆき)を見ると、ひどく胸が痛んだ。
こんな感情は初めてだ。
いつもなら、自然にほほえんでそれを見ることができるのに、今は必死で表情を取り繕う。
これは自分が生きるために必要なのだと言い聞かせた。
その後会った乱舞(らんぶ)も、相手の善意を無駄にすまいと、喜んで食べた。
そして与羽(よう)――。
「よぉ、ユリ君。それたい焼き? 私、一つもらっていいんかな?」
やはり与羽は、物分りが良い。暗鬼(あんき)の考えていることが、分かるのではないかと思ってしまう。
「うん、どうぞ」
暗鬼はそう言って一つ渡した。
今回もほほえみを絶やさず、いつかの与羽がしていたように、期待のこもった目で見つめる。
なぜか、目頭が熱くなった。
与羽が暗鬼を見ていれば、彼の目が潤んでいたことに気付いただろう。
しかし、与羽はずっとたい焼きを見つめていた。すぐに口をつけようとせず、少し首をかしげている。
「これ本当におばあさんとこのたい焼き?」
「そうだよ――?」
暗鬼は動揺を全く外に出さずに答えた。
「なんか匂いが違う気がするけど……。できたてじゃなぁけぇかな? まぁえっか。ありがと」
勝手に自己完結させた与羽はたい焼きをくわえ、軽い足取りでいなくなった。