龍 神 の 詩 −暗鬼編−

羽根の姫 - 一章 中州の龍姫
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  * * *


 どうやら町には簡単に侵入できた。

 話し声が聞こえる。女が二人、男が二人――。


「何なんかな? この人。凪(ナギ)ちゃんどこでこいつ見つけたん?」

 よく響く声がそう尋ねる。

 少し低めではあるが、若い女の声だ。

「栗(クリ)を拾いに山に入ったら、山の入り口近くに倒れていて、急いで城下に人を呼びに行って――」

 そう答えたのは、消え入りそうな高くか細い声だ。

「栗の代わりに拾ってきた、と」

「うん」

 その言い方はどうかと思ったが、凪は何の違和感もないようだ。


「敵じゃねぇのか?」

 これは地の底から響くような低音。少し不機嫌そうだ。

「あんたも敵国出身じゃろ、雷乱(らいらん)」

 それよりもさらに不機嫌な声色(こわいろ)で、最初と同じ良く響く声が反論する。

「あんたは敵か? 違うじゃろ? 簡単に決めつけんな」

 彼女は感情の起伏が激しいのかもしれない。

 しかし、暗鬼(あんき)を擁護しようとしているのは確かだ。


「……そうだな。悪りぃ」

 そんな彼女に慣れているのか、低い声の男――雷乱はあっさり折れた。

 さっきの不機嫌さはもうない。

 叱られた子犬のようにしゅんとしているのが、声の調子だけで伺える。
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