龍 神 の 詩 −暗鬼編−
□袖ひちて - 真終章 帰還
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「おいおい、羨ましいな兄ちゃん」
「ひっ君、子どもみたいよ」
周りにいるおじさんおばさんが、比呼(ひこ)をそうからかう。
池に落ちた子どもを救って以来、城下の人々の比呼に対する態度はやさしくなった。
自分の命を顧みず、子どもを救った勇気。
与羽(よう)に対する忠誠心。
それらを認められたのだ。
今では近所のおばさんたちから、「ひっ君」と呼ばれかわいがられている。
「馴染(なじ)んだな、比呼」
遠目にもその様子が分かり、与羽は呟いた。
しかし、その声は城下に満ちる歓迎の声にかき消されて、誰にも聞こえない。
「もう少し苦労するかと思うたけど……」
与羽はもう目の前まで迫った城を見た。
通りの終わりに、一人の青年が立っている。
周りに集まった人々に圧倒されることなく、堂々とその存在感を示している彼は――。
「乱兄(らんにい)!」
叫ぶと中州城主――乱舞(らんぶ)はもともと穏やかな顔をさらに和(なご)ませた。
「与羽。おかえり」
腕を伸ばして与羽の脇を掴み、馬から下ろしてやる。
「ただいま」
与羽はその場にいた全ての人が嫉妬(しっと)するほど無邪気にほほえんで、乱舞の首にしがみついた。
乱舞もそっと与羽の背に腕を回す。
誰もが感動するほどやさしくほほえましい兄妹の抱擁(ほうよう)だ。