龍 神 の 詩 −暗鬼編−
□袖ひちて - 終章 氷融く
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液体は冷たかったが、それが喉を通った途端その場所から体が温かくなってくる。
比呼(ひこ)はお礼を言おうと、凪(ナギ)を見るために頭を動かした。
その時、側頭部に触れている柔らかいものに気付いた。
凪は、比呼の頭を自分の胸に抱え込むようにして薬を飲ませたのだ。
そうするのが、一番安定が良く楽なのは分かっている。
しかし――。
比呼は自分の体が一気に火照(ほて)ったのを感じた。
おそらく、薬の効果ではない。
「な、凪!?」
慌てて離れようとすると、凪は簡単に比呼の頭を抱えていた手を離してくれた。
薬を飲ませたのだから、もういいということか。
しかし違った。
凪の脇には池に落ちた子どもを抱えた母親が立っていたのだ。
凪の薬のおかげか、子どもはもう震えておらず、頬も色を取り戻しつつある。
「えと……」
まっすぐ自分を見下ろしてくる母親にどうして良いか分からず、比呼はとりあえず地面に正座して姿勢を正した。