龍 神 の 詩 −暗鬼編−
□袖ひちて - 終章 氷融く
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こちらに駆けてくるのは、中州城下でも有名な医師の家系――薬師(くすし)の娘と、池に落ちた子どもの母親。
比呼(ひこ)は凪(ナギ)がまっすぐ自分のところへ来てくれるのを期待したが、彼女はその手前――池に落ちた子どものわきに膝をついた。
当たり前と言えば当たり前だ。
凪は持って来た竹製の水筒の中身を木椀に注ぎ、子どもの看護をしているアメに渡した。
言葉で指示されなくても、アメはそれをゆっくり子どもに飲ませる。
凪とともにやってきた母親はその様子を不安そうに見つめていた。
雷乱(らいらん)はそれを見ながら、焚き火に枝をくべている。
次に彼女は比呼のところにやってきた。
絡柳(らくりゅう)が立ち上がり、比呼の脇を譲る。
「凪……」
比呼は隣に膝をついた凪を見上げた。
次の瞬間、凪の左腕が首に巻きつき、比呼のあごをつかんで頭を大きく反らせた。
開いた口に水筒が押し付けられる。
そして、水筒の中身を直接流し込まれた。
乱暴なやり方だったにもかかわらず、液体は楽に喉を通っていく。
顔を上向けられた痛みもない。
同じようにして、何人もの患者に薬を飲ませてきたのだろう。