龍 神 の 詩 −暗鬼編−

袖ひちて - 終章 氷融く
1ページ/6ページ


 こちらに駆けてくるのは、中州城下でも有名な医師の家系――薬師(くすし)の娘と、池に落ちた子どもの母親。

 比呼(ひこ)は凪(ナギ)がまっすぐ自分のところへ来てくれるのを期待したが、彼女はその手前――池に落ちた子どものわきに膝をついた。

 当たり前と言えば当たり前だ。


 凪は持って来た竹製の水筒の中身を木椀に注ぎ、子どもの看護をしているアメに渡した。

 言葉で指示されなくても、アメはそれをゆっくり子どもに飲ませる。

 凪とともにやってきた母親はその様子を不安そうに見つめていた。

 雷乱(らいらん)はそれを見ながら、焚き火に枝をくべている。


 次に彼女は比呼のところにやってきた。

 絡柳(らくりゅう)が立ち上がり、比呼の脇を譲る。


「凪……」

 比呼は隣に膝をついた凪を見上げた。

 次の瞬間、凪の左腕が首に巻きつき、比呼のあごをつかんで頭を大きく反らせた。

 開いた口に水筒が押し付けられる。

 そして、水筒の中身を直接流し込まれた。

 乱暴なやり方だったにもかかわらず、液体は楽に喉を通っていく。

 顔を上向けられた痛みもない。

 同じようにして、何人もの患者に薬を飲ませてきたのだろう。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ