龍 神 の 詩 −暗鬼編−

袖ひちて - 一章 雪花舞う
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 渡された具沢山のすまし汁には、この年末についた餅が四つ入っていた。

 比呼(ひこ)は首をかしげた。いつもは三つなのだが……。


「凪(ナギ)を手伝ってくれたお礼ですよ」

 足手まといにしかならなかった比呼だったが、香子(かおるこ)はそう思っていないらしい。


「それに、比呼は痩(や)せてるからね。もっと食べないと」

 凪も言う。

「そうですよ。うちの孫を見習いなさいな」


 香子の言葉に、比呼は凪を見て首をかしげた。

 彼女も細身だが――。


「ほらほら、この大きな胸。私がたくさん食べさせた賜物(たまもの)ですよ」

「その代わり肩こりに効く灸(きゅう)が手離せなくなったけど……」

 照れるのかと思いきや、凪は普通に会話を成立させている。

 思わず彼女のふくよかな胸元に目がいって、慌てて真っ赤になって視線を逸(そ)らした比呼とは大違いだ。

 彼女らにしろ、辰海(たつみ)の父親――卯龍(うりゅう)にしろ、中州の人々は明るくて豪快だ。


 寒くても、外からは雑踏のざわめきが聞こえてくるし、どこかで鳥が鳴いている。

「かまくらつくる人、こ〜の指と〜まれ!」

 ひときわ大きな子どもの声が、大通りを駆け抜けていく。

 それを追いかける高い声に笑い声。


 ――ここにとどまってよかった。

 比呼はそう思った。

 まだ、中州の人々の多くは冷たいが、それも次第に変わっていくはずだ。

 そうなるように、努力しなくてはならない。


 比呼は改めてそう決心し、汁を吸ってやわらかくなった餅にかぶりついた。
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