龍 神 の 詩 −暗鬼編−
□袖ひちて - 一章 雪花舞う
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薬師(くすし)家は、凪(ナギ)と祖母の二人暮しだ。
凪の両親は優秀な医師で、中州や北の天駆(あまがけ)、川を渡った東の漏日(もれひ)をはじめ、様々な場所を旅して病人や怪我人の治療をしているらしい。
この城下町には、年に数回帰って来ると言うが、ここに居候(いそうろう)をはじめて間もない比呼(ひこ)はまだ会ったことがなかった。
凪は、幼いころから薬草や医学の知識を叩き込まれて育ったと言う。
薬師は代々、医学・薬学に携わる家系なのだそうだ。
比呼も、いくらか薬学の心得があるが、凪には遠く及ばない。
その師である彼女の祖母にかかれば、怪我の手当てから病気の治療、赤ん坊の取り上げまで何でもこいだ。
比呼は部屋の壁に無造作に並べられた薬草を眺めながら、内心ため息をついた。
「そのうちうまくなるよ」
凪がその心中を察して言う。
比呼が手伝ったために屋根の雪下ろしは、いつもの倍近く時間がかかってしまった。
「そうそう、中州で雪かきができんかったら生きていけませんからねぇ」
凪の祖母――香子(かおるこ)は暖かい汁を椀によそっている。
屋根の雪を下ろし、玄関先の雪を脇にどかした後、暖かい朝食を食べるのが、中州の冬の習慣なのだそうだ。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
比呼は、香子の差し出した椀を両手で捧げ持つように受け取った。
椀の熱が指先から、冷えた体をじんわりと温めてくれる。