龍 神 の 詩 −暗鬼編−
□龍神の郷 - 七章 風水円舞
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あたりは夜であるにもかかわらず、明るい。
境内(けいだい)の四隅――高い位置で、大きな炎が燃えているのだ。
炎の熱と、ひしめく人でのぼせそうなほど暑い。
拝殿(はいでん)から伸びる渡殿(わたどの)もそれがつなぐ舞台も、天駆(あまがけ)中からやってきた人々に囲まれていた。
この時だけは、全ての人が一部ではあるが聖域内にある風主神殿へ入ることを許される。
今彼らの集まっている舞台で、選ばれた娘が舞うのを見た後、龍神に新年のあいさつをするのだ。
* * *
舞手が聖域に入った時と同じ、よく響く金鐘(きんしょう)の音(ね)が辺りに響く。
その音ともに、年老いた巫女の後ろを楚々(そそ)と歩いてくる与羽(よう)を見て、辰海(たつみ)ははっと息をのんだ。
――永龍姫(えいりゅうき)。
中州城下町での彼女の愛称が浮かぶ。
永(なが)く幸せに生きて欲しいと願われた、龍の姫。
今の彼女は、まさに龍神だった。
控えめながらも、堂々とした立ち振る舞い。
女神のようだ。
肌も髪もいつもよりつややかで、身につけている着物はさほど派手ではないにも関わらず、よく目立っていた。
与羽の髪が独特なので、着飾る必要はないとみなされたのかもしれない。
その判断は正解だろう。
いつもの無邪気さがない代わり清楚で美しく、神々しい雰囲気を醸(かも)している。