龍 神 の 詩 −暗鬼編−
□龍神の郷 - 六章 玻璃の雫
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「……すみません」
辰海(たつみ)は目を伏せた。
涙がこぼれそうになったが、大斗(だいと)の前で泣いては余計馬鹿にされるだけだ。
深く呼吸して、何とか堪える。
「俺に謝ってもね――」
大斗はため息混じりに言う。
「それにお前、血がついたままの刀を鞘(さや)にしまっただろう?」
大斗が冷たい一番の理由は、これかもしれない。
実家が鍛冶屋(かじや)をやっている彼は、刃物の扱いには誰よりも厳しい。
「……すみません」
辰海はもう一度謝った。
大斗がやってくれそうになかったので、自ら近くに置いてあった桶に手ぬぐいを浸して冷やし、絞ってから額に押し当て横になる。
「中州に帰ったら、ちゃんと刀の手入れ代払ってよ。
鞘(さや)も傷だらけだ。刀を鞘で受けるから。
鞘も新しくするから、その代金も」
「……わかり、ました」
「あと、半月は安静にしてな」
「そうします」
辰海は素直に応えて、目を閉じた。