龍 神 の 詩 −暗鬼編−

龍神の郷 - 六章 玻璃の雫
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 どのくらい寝ていたのだろう。

 ぼんやりと目を開けると、むき出しになった梁(はり)が見えた。

 それでここが中州にある自分の部屋ではないことに気付いた。

 そして、天駆(あまがけ)に来たことを思い出す。


 次の瞬間、一気に記憶がよみがえった。

 陽動のこと、佐慈(さじ)で迷子になったこと――。


 ゆっくりと体を起こすと、視界が暗転した。

 額から、ぬるくなった手ぬぐいが落ちる。

 目まいが落ち着いてから、額に手を当てると、じんわりと嫌な熱を感じられた。


「すごい高熱だったよ」

 聞き覚えのあるその冷たい声に、ふと横を見ると部屋の隅で、大斗(だいと)が腕を組んで座っていた。

 ひどく怖い顔をしている。

「九鬼(くき)、先輩……」

 辰海(たつみ)の声は熱のためか、かすれていた。


「天駆の屋敷に行っても、お前は来てないって言うし、まだ場が混乱していたから佐慈に捜しにも行けない。

 与羽(よう)に報告もできないし、老主人には余計な心配をさせたくない。

 昼過ぎにお前が自力で帰ってきたって言うから来てみれば、濡れ鼠で気を失ってて、すぐに熱出して丸一日目覚めない。


 お前ふざけてるわけ?

 これだから、弱い奴は嫌いなんだよ」

 淡々としたその声に怒りは感じられないが、それが逆に恐ろしい。
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