龍 神 の 詩 −暗鬼編−
□龍神の郷 - 五章 月白龍神
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「禊(みそぎ)しろってなぁ」
与羽(よう)はもやの立つ滝壺を見た。
今は霜月――十一月の終わりだ。
辺りには薄く雪が積もり、吹く風は禊のために薄着している与羽の肌を容赦なく刺していく。
頬も腕も鳥肌がたち、気を抜くと歯の根が合わなくなりそうだ。
そして、滝壺の水は凍るように冷たいのだろう。
足を踏み出す勇気がわかない。
「大丈夫ですから。早くしてくれないと投げ込みますよ」
ここまでついてきた空(ソラ)が伸ばしてくる手をかいくぐり、与羽はそっとつま先を水につけた。
できるだけ水に触れる部分が少ないように――。
「ん?」
与羽は軽く首を傾げて、足首まで水につけた。
水温が予想以上に高い。
こんなに寒い日であるにもかかわらず、よくよく見ると水面には全く氷が張っていなかった。
「温かいでしょう?」
空がどこから持ってきたのか長いひしゃくで水をすくい、与羽の肩にかけながら言う。
普通なら、水の冷たさに飛び上がるところだが、ぬるま湯程度には温かい。