龍 神 の 詩 −暗鬼編−

龍神の郷 - 五章 月白龍神
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  * * *


「禊(みそぎ)しろってなぁ」

 与羽(よう)はもやの立つ滝壺を見た。

 今は霜月――十一月の終わりだ。

 辺りには薄く雪が積もり、吹く風は禊のために薄着している与羽の肌を容赦なく刺していく。

 頬も腕も鳥肌がたち、気を抜くと歯の根が合わなくなりそうだ。

 そして、滝壺の水は凍るように冷たいのだろう。

 足を踏み出す勇気がわかない。


「大丈夫ですから。早くしてくれないと投げ込みますよ」

 ここまでついてきた空(ソラ)が伸ばしてくる手をかいくぐり、与羽はそっとつま先を水につけた。

 できるだけ水に触れる部分が少ないように――。


「ん?」

 与羽は軽く首を傾げて、足首まで水につけた。


 水温が予想以上に高い。

 こんなに寒い日であるにもかかわらず、よくよく見ると水面には全く氷が張っていなかった。


「温かいでしょう?」

 空がどこから持ってきたのか長いひしゃくで水をすくい、与羽の肩にかけながら言う。

 普通なら、水の冷たさに飛び上がるところだが、ぬるま湯程度には温かい。
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