龍 神 の 詩 −暗鬼編−

龍神の郷 - 二章 領主と神官
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 中州の特産品である銀を掘っている鉱山は、このあたりにあるはずだ。

 与羽(よう)は西の山々を見た。

 低い位置には木がなく、一面枯草に覆われていた。肥料や飼料に使う草を育てているのだろう。

 その先は次第に木が多くなり、最後には急峻な山脈がそびえる。

 鉱山らしきものは見えない。


「この時期は収穫や冬越しの準備で忙しいからね」

 与羽と同じく、西の山地を見ながら答えてくれたのは辰海(たつみ)だ。

「それに、冬になると雪で鉱山には入れなくなる。中州で銀を掘るのは、晩春から夏にかけてだけだよ」

「ふ〜ん」

 答えが聞けたのはありがたかったが、考えを読まれているようであまりいい気はしない。


 与羽は不機嫌な顔をしながら、懐から笛を取り出した。

 城下町を出てすぐ、馬上で暇を持て余していた与羽に辰海が貸してくれたものだ。

 与羽は笛を吹きながら、雨のように葉を落とす山々を眺めた。

 彼女の奏でる曲は、中州に伝わる歌語りの伴奏。目的地――天駆(あまがけ)にも関係するものを選んで吹いている。


 龍神の降臨と中州の成り立ちを語る『中州龍神伝承歌』


 かつて、北の山脈の奥地におり立った龍神は、幼い人間の少女と出会う。

 口減らしのために捨てられた彼女に帰る所はなく、龍神――空主(そらぬし)は人間に代わって彼女を育てた。

 少女は大人になり、龍神との間に四人の子を成す。
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