龍 神 の 詩 −暗鬼編−

龍神の郷 - 一章 天駆へ
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 内心ほっとしながら、与羽(よう)は兄を見上げた。

 乱舞(らんぶ)もちらりと与羽を見て、誰かが発言するのを待つ。


「僕は、中州に来て日が浅いので、棄権させていただきます」

 まずは比呼(ひこ)が控えめに言った。

 彼は、この秋に敵国――華金(かきん)から、暗殺者として中州にやってきたところを、与羽に説得されて中州に居ついたという変り種だ。

「もちろん、僕をこっちに残して行くのが不安なら、喜んでついて行くけど……」

「不安はなぁけど、他のもんがどう思うか分からんな」

 与羽は、抱えて座った右足のつま先を見ながら言う。


「連れて行っても同(おんな)じじゃ。いい機会と思って、私や舞行(まいゆき)じいちゃんを殺すかも――、って中州の人が思う可能性は高い」

 ふっと自嘲(じちょう)気味に笑って、与羽は上目遣いに比呼を見た。


「あんたの言(げん)は通す。同行者から、比呼は除外しょう」

 与羽の隣で、乱舞がほっと息をつくのが誰の目にも分かった。彼も比呼の同行には不安があったらしい。

 温和な顔をしつつも、やはり一国の領主。その顔の裏には思慮深い面も持ち合わせている。


 そして、乱舞が口を開いた。

「――となると、与羽に代わる比呼君の世話役が必要だね」

 もっと直接的に言えば、『比呼の監視役』だ。

 わざと回りくどい言い方をした乱舞に、気を遣われていると悟った比呼は微苦笑した。
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