龍 神 の 詩 −暗鬼編−
□龍神の郷 - 序章
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ちなみに与羽(よう)は、浅葱(あさぎ)――水色に赤や黄の紅葉が散らされた小袖。
さすがに寒いので、いつもの膝丈七分袖ではなく、手首やくるぶしを覆ってくれるほど丈があるものだ。
庭の見える縁側を通っていく人は、仲良く寄り添う与羽と辰海に思わず笑みを浮かべている。
しかし、その雰囲気を壊すように土を踏む音が耳に入ってくるものだから、与羽の機嫌のよさも半減してしまった。
しかも辰海(たつみ)が笛の演奏をやめ、慌てたように立ち上がる。
ここで、やっと与羽は足音のほうを振り返った。
「乱兄(らんにい)……」
そう呟いて、与羽は急いで岩から飛び降りる。
「与羽」
与羽の兄――乱舞(らんぶ)はにっこりほほえんで妹の名を呼んだ。
小さな国とはいえ、若干二十歳で国を治める青年の武器が、この人好きのする笑みだった。
彼はその笑顔でさまざまな人を味方につけ、何とかこの国の結束力を保っているのだ。
「何か用?」
一方の与羽は、表情も口調も不機嫌そう。
大抵何にでも、無関心・無愛想を貫くのが彼女だ。兄とは対照的な態度と言える。
乱舞の答えは、簡潔で曖昧だった。
「与羽、冬の間、ちょっと旅に出てみないか?」