龍 神 の 詩 −嵐雨編−
□七色の羽根 - 九章 橙の羽根
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「華奈(かな)が目覚めたらね」
しかし大斗(だいと)は、素直に従おうとはせずに脇に寝かされた華奈を見た。
青白いほほ、着物は乾いたものに着替えさせてあるが、髪はまだ湿り額に張り付いている。
大斗と華奈も中州川の水流に流されたものの、乱舞(らんぶ)が華奈に渡してくれていた命綱のおかげで何とか城下に引き上げられた。
しかし、水とともに流されてきた岩や木などから華奈を守ったために、大斗は体中傷だらけだ。
そのおかげで、華奈に外傷は少ないが、流されたときに気を失ってまだ目覚めない。
「今すぐ倒れろ!」
絡柳(らくりゅう)が怒鳴る。
大斗の肩をつかんで揺さぶると、大斗は大きくよろけた。
それを分かっていたかのように支えて、絡柳はため息をついた。
「わかった。俺もどこかへ行けばいいんだろう?」
そう言って、大斗から離れる。客間の障子戸まで下がり、そこで再び大斗を振り返った。
「ちゃんと寝るんだ。お前は一刻も早く本調子を取り戻すよう努めろ」
そう言い残すと同時にぴしゃりと戸が閉められ、絡柳の足音がだんだん遠ざかっていく。
それが聞こえなくなってから、大斗は倒れ込むように布団に横になった。
たったそれだけの動作で体中が痛む。
しかも一度横になると、急に四肢が重たくなったようでもう立ち上がれそうになかった。
「……悪夢を見そうだ」
そうつぶやきつつも、これ以上は耐えきれない。
大斗は隣に寝かされた華奈を見守りながら意識を手放した。