龍 神 の 詩 −嵐雨編−

七色の羽根 - 九章 橙の羽根
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「大斗(だいと)、いい加減倒れろ」

 天守閣で奏でられる澄んだ鉦(かね)の音を聞きながら、絡柳(らくりゅう)は目の前に立つ友人にそう命じた。


 ここは中州城。

 普段は客間の並ぶ客殿の一室だが、今は医務室として開放されている。

 城下周辺での戦いがひと段落したため、剣戟(けんげき)の音は遠く、兵の手当てに駆け回る医療班やその手伝いの足音が響いていた。


「何?」

 絡柳の命令に、大斗は不機嫌に言った。

 鎧はすべて脱ぎ、乾いた着物に着替えている。

 はだけた胸元にも、四肢にも頭にも真新しい包帯が巻かれ、場所によっては血がにじんでいたり、添え木がしてあったりと、痛々しい傷も見受けられた。


「お前、それだけひどいけがをしていてどうして倒れない?

 体中あざだらけだったじゃないか。どうせ骨もやられてるんだろう。

 せっかく人払いしたんだ。とっとと倒れろ。寝ろ」

 大斗の手当てを手伝った絡柳は荒れた口調で言う。

「平気だよ、これくらい」

 しかし大斗はいつもの口調で言って、添え木のされた左腕を振ってみせた。

 痛みに顔をしかめることもなく、本当にたいしたけがではないように見える。


「強がるな。これ以上乱舞に心配かけるんじゃない」

 しかし、絡柳は騙されなかった。


「俺が倒れでもしたら、乱舞は一層心配するんじゃないの?」

「馬鹿言え。お前が強がっているのは、俺にも乱舞(らんぶ)にもバレバレだ。

 いつまでも無理して立ち続けている方が心配に決まっている」

 乱舞はまだ中州川付近に残り、そこで城下を守りつつ平野部での戦いを見守っているはずだ。

 側近中の側近である大斗も絡柳もいない状態で。
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