龍 神 の 詩 −嵐雨編−
□七色の羽根 - 九章 橙の羽根
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「大斗(だいと)、いい加減倒れろ」
天守閣で奏でられる澄んだ鉦(かね)の音を聞きながら、絡柳(らくりゅう)は目の前に立つ友人にそう命じた。
ここは中州城。
普段は客間の並ぶ客殿の一室だが、今は医務室として開放されている。
城下周辺での戦いがひと段落したため、剣戟(けんげき)の音は遠く、兵の手当てに駆け回る医療班やその手伝いの足音が響いていた。
「何?」
絡柳の命令に、大斗は不機嫌に言った。
鎧はすべて脱ぎ、乾いた着物に着替えている。
はだけた胸元にも、四肢にも頭にも真新しい包帯が巻かれ、場所によっては血がにじんでいたり、添え木がしてあったりと、痛々しい傷も見受けられた。
「お前、それだけひどいけがをしていてどうして倒れない?
体中あざだらけだったじゃないか。どうせ骨もやられてるんだろう。
せっかく人払いしたんだ。とっとと倒れろ。寝ろ」
大斗の手当てを手伝った絡柳は荒れた口調で言う。
「平気だよ、これくらい」
しかし大斗はいつもの口調で言って、添え木のされた左腕を振ってみせた。
痛みに顔をしかめることもなく、本当にたいしたけがではないように見える。
「強がるな。これ以上乱舞に心配かけるんじゃない」
しかし、絡柳は騙されなかった。
「俺が倒れでもしたら、乱舞は一層心配するんじゃないの?」
「馬鹿言え。お前が強がっているのは、俺にも乱舞(らんぶ)にもバレバレだ。
いつまでも無理して立ち続けている方が心配に決まっている」
乱舞はまだ中州川付近に残り、そこで城下を守りつつ平野部での戦いを見守っているはずだ。
側近中の側近である大斗も絡柳もいない状態で。