龍 神 の 詩 −嵐雨編−

七色の羽根 - 七章 黄金の旗
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「いい? 町は家並みがあってこその町。だから、君たちはこの町を守らないといけん。

 そして、町は住む人がいて、活気があってこその町。だから、君たちの誰か一人でも死んじゃいけん」


「そして町は治める人がいてこその町です。城主、あなたが死ぬことも許しません」

 誰かが言った言葉に乱舞(らんぶ)は「揚げ足を取らないでよ」と困ったように言った。


「まぁ、そういうことだね」

 乱舞はきまり悪そうにぼそりとそう締めた。


 しかし、本当に自分たちを気遣ってくれている若城主の言葉に、人々の士気は高まっている。

 みな硬い表情をしつつも、まっすぐ顔をあげていた。


 その先には、小雨にぼやけながらも異常なまでの存在感を示す重々しい軍団――。



 その様子を与羽(よう)は天守閣の最上階から眺めていた。

 普段は庭の片隅に追いやられ、飾りにしかならない天守閣も戦の時にはその役割を果たす。


 与羽の隣には老年の武官が立っていた。

 武官二十位―― 一鬼氷輪(かずき ひょうりん)。華奈(かな)の祖父だ。

 かつてはさらに上位の官位を賜っていたが、若く力のある人々に順位を譲り今は二十位まで下がっている。

 しかし、順位を持つ上級武官の中では、最も高齢で経験もある。

 最上位の武官――九鬼北斗(くき ほくと)からも尊敬される優秀な人物だ。


 彼は、右手で槌状のバチを握り、まっすぐ下を見下ろしていた。

 すぐそばには鉦(かね)。

 これを用いて、中州の軍に戦況や指示を伝えるのだ。

 経験があり信頼があるからこそ託(たく)された役。
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