龍 神 の 詩 −嵐雨編−
□七色の羽根 - 七章 黄金の旗
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普段の中州(なかす)城下町の人口は二万ほど。
城下周辺に住む農民や官吏などを含めても三万に少し足りない。
小国中州最南端にして最大の町だ。
しかし、現在の城下町にいるのはその半分ほどだった。もしかしたらそれよりも少ないかもしれない。
老人子どもをはじめとし、多くの町民農民はより北にある町村に避難してしまった。
体が不自由だったり、身寄りのない人々も城下町の北にある月日(つきひ)の丘、南にある紫陽(しよう)家の地下などに避難している。
そして、中州城下町を陸から切り離している中州川の土手には男たちが集まった。
いや、長刀(なぎなた)姫――華奈(かな)をはじめとして女も十数人混ざっている。
一番若いのは九鬼(くき)家次男――九鬼千斗(せんと)だろうか。
それよりも若い者は、町の中や北の村などの警護にあてられ、前線には立たない。
城主の乱舞(らんぶ)は鞘(さや)に収まった刀を地につき、真っ直ぐ彼らを見ている。
その横には白髪が特徴的な卯龍(うりゅう)と、大斗(だいと)が乱舞を挟んで立っていた。
乱舞が皆を見回して悲しそうにほほえんだ。
「怖い人、戦いたくない人は逃げても良い。
命は大事な物だ。この町のためなら脅(おびや)かされても良いという人だけ残れ」
乱舞がそう言っても身動きする人はいない。
誰かが、「私の命、この町のためなら捨てられます」と言った。それに何人かうなずく。
「いや、死ぬつもりの人は帰ってよ」
乱舞ははっきりした口調で言った。